「見るからに頑丈な男で…」

  骨組みのがっしりとした、見るからに頑丈な男で、大きな羅漢頭=羅漢(仏教上の聖者・阿羅漢)のような頭=をして、その割に小さな「かなつぼ眼」(窪んで丸い目)をぎらぎらと、いつも異様に光らせていたが、口元の辺りには人を小ばかにしたようなせせら笑いを浮かべていた。

 一審はもちろん死刑だった。判決が終わってから、裁判長が被告をじっと見詰めるようにしながら「この裁判に不服だったら、5日以内になら控訴できるから」と言うと、フンと小ばかにしたような顔つきでにべもなく答えた。「めんどくせえから、さっぱりやってもらいやしょうぜ」「不服はないのかね。覚悟はできているのかね」。さすがに裁判長の言葉には死刑囚に対するいたわりがあったが、龍雲はいつもの表情を口辺に見せて「なアに、早く死刑になった方がさっぱりしてようがさア」と言った。

 教誨師の言うことなどはてんでばかにして聞いてはいなかった。「あっしも前身は真言宗の坊主でさア。おまえさんの言いなさるようなことア、子どもの時分から耳にタコのできるほど聞いてまさア。いまさらそんなお説教を聞いてありがたいと思うくらいなら、盗人も人殺しもしませんやね」。こう言って出て行かない。再度呼び出しがあると、係官に言うのだった。「うるせえ坊主だなあ。行かねえったら行かねえから。それでも無理にって言いやがンなら、足腰の立たねえくらいぶちのめしてくれるから。そう言っておくんなせえ」

 当時の死刑囚は自殺を恐れて雑居房に入れていた。すると、同房の者たちに差し入れられる弁当や菓子を無断で食べてしまう。ぶつぶつ言う者があると、「おいおい、何をぶつぶつ言ってやがんでえ。こちとらはもうじきブランコになる人間様だ。こんな弁当の5本や10本、黙ってこちとらに奉ってもいいんだ。ぶつぶつぬかしやがンなら、行きがけの駄賃だ。何ならてめえも一つ……」。これでみんな参ってしまう。

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 死刑以上の刑はない。傍若無人の死刑囚を、みんな持て余していたということだろう。同記事によれば、死刑執行時も態度は変わらない。