ピークで降りたことでキャンディーズは若者の心情に火をつけた
――『気分を変えて?』はキャンディーズの解散のコンサートの模様と、映画を作っている主人公の映画の中の風景が交錯する構成ですよね。
犬童 原將人さんが高校生の時に撮った『おかしさに彩られた悲しみのバラード』という16ミリの自主映画の名作があるんですよ。これがものすごく好きで。原さんは僕より10歳上なので、1968年が舞台なんです。ベトナム反戦運動の時に、映画を作りたい高校生が何を撮っていいか分からないということをやっていたんですね。ベトナム反戦運動が68年を象徴しているから、僕は78年のティーンエイジャーを象徴できる出来事は何か考えた。連合赤軍事件以降、学生運動はまるっきり変わってしまった。あれは72年だから、78年はその影響がすごく大きくて、高校生が学生運動に近づくことはなかったですよね。ティーンエイジャーたちが集まってパッションがあふれるみたいな、そういう背景がないんです。その頃、「普通の女の子に戻りたい」とキャンディーズが解散を宣言したんです。そしたら、若い男の人たちが急に燃え出した。
なんで若い人たちがそんなに熱くなったのか、僕は心情的に分かったんです。それは、既定路線に乗らないということですよ。キャンディーズはあの時ピークだから、会社からすれば、そのままできるだけ長くやってほしいじゃないですか。それなのに、自分で降りた。僕たちの世代は、その前の学生運動の反動なのか、できるだけいい大学に入っていい会社に入るとか、官僚になるとか、安定した路線に行くことを求められていた。若い人たちは心情的には既定路線のまま行きたくない思いを持っていて、その気持ちにキャンディーズが火をつけた。だから、これは使えるなと思ったんです。78年を象徴できるのはキャンディーズの解散しかないと。
それで、78年4月4日にキャンディーズ解散コンサートに集まってくる周りの人たちを撮りに行った。テレビで放送するのは知っていたから、中はそっちを使って、周りに集まってくる人をとにかく撮る。それを原さんの映画のベトナム反戦運動のような背景にして、それと別に、その時の17歳の自分の心情を、その中に入れていくという構成を決めた。