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ものすごく大きかった荒井由実、萩尾望都の存在

――主人公は映画を撮ることは決めていますが、何を撮るか迷っていますね。

犬童 そうです。『8 1/2』のマルチェロ・マストロヤンニとか、原さんの高校生と同じで、撮りたい欲望はあるけど何を撮っていいか分からない。17歳の時の自分はどうだったかを残そうとする話になったということですね。

『気分を変えて?』より(提供:一般社団法人PFF)

 さっき少し話が出たけど、荒井由実の存在ってものすごく大きいんですよね。それまでにない、メロディとか、アレンジもそうだけど、歌詞がものすごく新鮮だった。荒井由実を深夜放送で初めて聴いた頃、僕は萩尾望都の『トーマの心臓』とも出会ったんです。たまたま弟が貸本屋で借りてきて、「明日までに読むならいいよ」って3冊置いていって。この萩尾望都という女性が本当にすごいなと思ったんです。少女漫画の世界ってもしかしたらすごくなっているんじゃないかと思って、大島弓子さんとか山岸凉子さんとかの少女漫画を探して読んでいったんです。そのことがこの映画にものすごく影響しているんです。

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 少年漫画って大体目的があって、成長とか成功をするためにその日戦うとか努力するものが多い。だから、少年漫画は、未来のために頑張るみたいな構造になっている。でも少女漫画を読むと、重要なのはその日なんです。荒井由実の歌も、歌詞を聴いていると、描いているのは今日ですよね。今日の今をすくい取って歌詞にするみたいなことをやっていて。そういう視点で映画を作りたいなと思ったんです。

 だから、その青年が将来のために何かするとかじゃなくて、1978年4月4日の今日という日の17歳を残しておく。だから、『気分を変えて?』の中で『トーマの心臓』の冒頭が読まれるんです。

犬童一心監督 撮影 藍河兼一

――そういう意味合いだったんですね。少年漫画って、あるテーマを分かりやすく訴えるものが多いけど、少女漫画は分かりやすいメッセージというよりも、その日の気分を描いたり、何かモヤモヤしたものをそのまま伝えているみたいな感じがしますね。

犬童 いや、ものすごい明確なメッセージがありますよね。

――そうですか。

犬童 人によりますけど、萩尾さんとか大島さんは明確なメッセージがあって。この2人は団塊の世代だと思うんですけど、言いたいことだけを言って消えた連中を許さないみたいな。学生運動が華やかなりし頃、先頭に立っていた連中が、敵対していた側に今は普通にいるけど、この人たちは「そっちには絶対行かないぞ」と決心しているというか。当時そう感じていました。

――そういう大人にはなるまい、みたいな?

犬童 その頃、少女漫画に強く感じてましたね。この世代の女性たちはそうなんだ、と。だから自分の中ではそういうふうに、キャンディーズと萩尾さんとか大島さんとかの少女漫画家が一つになっている。