『大阪物語』の脚本から『金髪の草原』『ジョゼと虎と魚たち』へ
犬童 初めて会って1年近くたってからまた市川さんから電話が来た。「この間言ってた大阪の映画、できることになったから」と。市川さんが三井のリハウスのオーディションで池脇千鶴を見つけたんです。彼女が吉本に入って、市川さんが吉本と一緒に池脇さんの映画を作ることになっていた、それで夫婦漫才の芸人の娘の話を書いて、『大阪物語』を作ったんです。
池脇さんの2作目を作ることになって、市川準さんだと金がかかりすぎるから僕に撮ってくれというので、『金髪の草原』を撮った。それで、池脇さんでもう1本作ろうとなって、『ジョゼと虎と魚たち』を作るというふうになって、だんだん映画を作るようになった。
――『金髪の草原』は大島弓子原作ですね。
犬童 大島さんの『金髪の草原』は前から映画にしたかったんです。その次の企画はものすごく粘って探しました。池脇さんの能力を100%発揮できる企画は何かと、久保田修(注2)さんとすごく探した。『金髪の草原』は池脇さんの能力を使い切ってないんですよ。もっといけると分かっていたので。それで、久保田さんの奥さんが『ジョゼと虎と魚たち』の原作を持ってきたんです。
――商業映画を撮り始めて、自主映画との違いを感じることはありますか?
犬童 うーん。一番何が違うのかな。自主映画には俳優っていないじゃない。
――友だちとかでプロの俳優はいないですよね。
犬童 プロになってから一番何が違うかというと、俳優がいることなんですよ。僕は俳優で映画を撮っているんです。俳優をどれだけ生かすかは、CMからなんです。映画を撮ってもやっぱり主役がよく見えるように、わき役ならわき役がよく見えるように、俳優の人がよく見えるようにといってずっとやっている。俳優と付き合うのは新鮮だったんです。
撮影 藍河兼一
注釈
1)山村浩二 アニメーション作家、絵本作家。犬童監督と『金魚の一生』を制作。
2)久保田修 映画プロデューサー。犬童作品は他に『メゾン・ド・ヒミコ』『のぼうの城』など。
いぬどう・いっしん 1960年生まれ。高校時代より映画製作を行い、『気分を変えて?』がぴあフィルムフエスティバル入選。大学時代、池袋文芸坐と提携して16ミリ作品『赤すいか黄すいか』、8ミリ作品『夏がいっぱい物語』を発表。 大学卒業後CM演出家として数々の広告賞を受賞。98年に市川準監督の『大阪物語』の脚本執筆を手がけ、本格的に映画界へ進出。1999年に『金髪の草原』で商業映画監督デビュー。主な作品に『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『黄泉がえり』『ゼロの焦点』『のぼうの城』『グーグーだって猫である』など。
こなか・かずや 1963年三重県生まれ。映画監督。小学生の頃から8ミリカメラを廻し始め、数多くの自主映画を撮る。成蹊高校映画研究部、立教大学SPPなどでの自主映画製作を経て、1986年『星空のむこうの国』で商業映画デビュー。1997年、『ウルトラマンゼアス2 超人大戦・光と影』でウルトラシリーズ初監督。以降、監督・特技監督として映画・テレビシリーズ両方でウルトラシリーズに深く関わる。特撮、アニメーション、ドキュメンタリー、TVドラマ、劇映画で幅広く活動中。主な監督作品に、『四月怪談』(1988)、『なぞの転校生』(1998)、『ULTRAMAN』(2004)、『東京少女』(2008)、『VAMP』 (2019)、『SINGLE8』 (2022)、『劇場版シルバニアファミリー フレアからのおくりもの』(2023)など。