「広告業界の天皇」市川準との出会い

――でも、監督協会の新人賞を取りましたね。

犬童 東京でも見たいという友達がいて、渋谷の現像所で試写をやったんです。そこで鈴木秀幸というCMプランナーの友達がものすごく気に入ってくれた。その時、テレシネのVHSを鈴木さんに1本あげたんですよ。鈴木さんがその帰り道で市川準さんとばったり会って、市川さんに「これ今見てきたけど、すごい面白いから見てください」とVHSを渡したんです。

 それで、1カ月ぐらいして、市川さんから会社に電話がかかってきた。僕はその時仕事で外に出ていたから、会社から「市川準がお前に会いたいって言ってるぞ」と電話がかかってきた。市川準って広告業界の天皇陛下みたいなディレクターなので、それが僕を探しているのは何だと。それで電話したら、ちょっと会ってくれないかと言われて市川さんと会ったんです。何のために呼んだかというと、脚本を書いてくれと。僕が今まで何のCMを作ったか、どういう映画をやったかとか一切聞かないで、「映画すごく面白かったんだけど、僕も大阪で映画を撮りたいと思っているから、大阪を舞台にした映画のシナリオを書いてくれないか」と。

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犬童一心監督 撮影 藍河兼一

 あと、市川さんは『二人が喋ってる。』を絶対に東京で公開しろと言うんです。「できることがあったら俺はするから」と、『キネマ旬報』の試写室欄にこの映画の大絶賛評を載せてくれたんです。それで、「市川準がメチャクチャ褒めてる映画があるぞ」となって、映画監督協会の新人賞の選定をしている人間が見せてくれと言ってきた。あと、サンダンス・フィルム・フェスティバル in 東京の下見審査をしている人が、市川準が褒めているからと見てくれて。それで、映画監督協会の新人賞とサンダンスのグランプリに両方なったんです。賞をもらったので配給会社が付いて、銀座の映画館で公開され、商業映画になった。だから、市川準さんのおかげです。市川さんが「絶対に公開しろ」と言って試写室欄に書いてくれなかったら、たぶん僕は会社の企画演出部の部長になっていたと思います(笑)。