クラフトには「熟練」や「高品質」といったイメージが伴うようになり、2000年代からは大手メーカーでも製品名にクラフトという文字を使うなど、一般的な名称として認知されるようになりました(「クラフトブルワリー」や「マイクロブルワリー」といった言葉での分類が試みられたのは『ニューブルワー』誌の1987年3~4月号が最初とされています)。
アメリカにおけるクラフトビールの定義にも様々な紆余曲折がありましたが、「小規模であること」「独立していること」「伝統的な造りをしていること」という三つの要素を兼ね備えたものとされています。
日本においては明確な定義はありませんが、従来製品と差別化し、高付加価値商品として販売するための枕詞として用いられています。
地ウイスキー≠クラフトウイスキー?
日本において「クラフトビール」という呼称は、2000年代後半から、従来の「地ビール」を言い換えるものとして用いられるようになりました。
そもそも日本で「地ビール」が生まれたのは、1994年にビールの醸造免許に関わる最低製造数量基準(製造量の下限)が、2000キロリットルから60キロリットルに緩和されたことがきっかけです。それまで大手メーカーしか参入できなかったビール製造の機会が開放されたともいえます。ただし、その盛り上がりは長くは続きませんでした。わずか5年ほどの間に、地域おこしのために全国に300以上もの醸造所が乱立。値段の割に品質が伴わないビールが増えたこともあり、ブームは一気に収束してしまいます。
しかし、2000年代にアメリカのクラフトビールブームの余波を受け、地ビールブームが収束したあとも生き残っていた一部の生産者と、専門的な研鑽を積んだ新たな造り手が、本格的で特色ある造りを実践するようになります。そうして実力ある醸造所が台頭してきたことで、日本でも「クラフトビール」ブームが勃興しました。従来の“おみやげ品”としての「地ビール」から脱却し、本格的で工芸としての品質を高めるものとして「クラフトビール」という言葉が用いられるようになったのです。
こうした経緯は、ウイスキーにおいて1980年代に「地ウイスキー」ブームが収束し、2010年代からブームが再燃した姿に重なります。ただし、クラフトウイスキーのほうは、クラフトビールとその始まり方が異なっています。