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――でも子供が2人になると、さらに大変だったんじゃないですか?

呉監督 私はむしろ逆で。もちろん物理的な大変さはありますけど、2人目が生まれて精神的には楽になった気がしています。長男だけのときは、私がゴミ出しに行くほんのちょっとの間でも1人になるのを嫌がったのに、次男ができたら2人で待てるようになったり。「ゴミ出しに行かせてくれた」「コンビニに買い物に行かせてもらえた」と段階を踏んで手が離せるようになってきました。

――2人の世界ができてきたのですね。

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呉監督 次男が1歳になったころに「どうやらキャラが違うぞ、この兄弟」と気づいたんです。長男はものすごくおとなしかったんですが、次男は明るくひょうきんで、その影響で長男もどんどんたくましくなりました。私がいなくても2人で遊べるようになって「もう大丈夫だな」と少しずつ気持ちが仕事にも向くようになったんです。

©文藝春秋

「私自身が在日韓国籍なので、ある意味『ふたつの世界』で生きてきた」

――2021年には『私たちの声』というオムニバス映画で17分ほどのショートストーリーを撮られています。(公開は2023年)

呉監督 コロナ禍から世の中が動きはじめた時期にちょうど声をかけていただいて、次男も1歳になって言葉でのコミュニケーションを取れるようになってきたので、やってみようとお引き受けしました。主演の杏さんとプライベートでも交流させてもらっている中で、杏さんがパリに移住したのを見て私もチャレンジできるかもしれないと勇気をもらったんです。ちょうどそのタイミングで『ぼくが生きてる、ふたつの世界』のお話をいただいて。

©五十嵐大/幻冬舎©2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会

――奇しくも今作も「家族」の話ですよね。

呉監督 私自身が在日韓国籍なので、ある意味「ふたつの世界」で生きてきたところがあって。五十嵐大さんの原作を読んだときに、彼のアイデンティティに対する感覚に共感したんですよね。彼はろう者の両親のもとで生まれた「コーダ」という立場で、成長につれ周りの目を気にするようになって、「自分は普通じゃない」と思いながら成長していくんです。