『そこのみにて光輝く』(2014)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を取るなど輝かしいキャリアを持つ呉美保監督(47)にとって、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(9月20日公開)は9年ぶりの長編映画になる。
CMなど短い映像の仕事は続けてきたが、映画のキャリアに長い空白ができたのは「子育てをしていたら時間がまったくなかった」という理由。新作も夏休みに2人の息子を夫と義父母に預けて3週間で撮り切るという強行日程だったという。
キャリアと家庭の悩み、日本映画界の“働きにくさ”について、呉監督に話を聞いた。
――『ぼくが生きてる、ふたつの世界』は、昨年の夏休みの3週間で撮影されたとお聞きしました。
呉美保監督(以下、呉監督) 撮影した時は長男は8歳、次男は3歳でした。2人を関西にいる夫の両親にお願いして、3週間で撮り切りました。まずは子どもたちと一緒に帰省し、違う環境での生活に慣れさせるため3日間過ごして、いったん帰京してから撮影のために宮城に入りました。長編映画の撮影は8年ぶりだし、我が子とこんなに離れるのは初めてだったのですごくドキドキでした。
――何がいちばん不安だったんですか?
呉監督 子どもたちが寂しくて泣いていないか心配でしたし、8年ぶりの映画撮影のスケジュールをこなせるか、何より体力がついていくのか、不安だらけでした。
「ここまでして映画をやる必要があるのか」と自問自答したことも
――実際はどうだったのでしょう。
呉監督 それが映画撮影の合間に夫の実家に連絡しても、子どもたちに「今、たこ焼き食べてるから」ってすぐ切られたり(笑)。母親と離れて寂しがっていると思いきや全くそうではなく、毎日楽しく過ごしていたようで、安心したと同時に、逆に私が寂しくなりました(笑)。
――それでも2人の子どもの世話をしながら撮影の準備をして、義父母に預ける段取りまでするのは大変そうです。
呉監督 毎日綱渡りでしたよ。俳優さんの衣装合わせをしているときに保育園から「熱が出ました」という連絡が来て迎えに行かなきゃいけないとか。周りのスタッフに支えてもらって、どうにか撮影にこぎつけたという感じです。大変な時は「ここまでして映画をやる必要があるのか」と自問自答することも、正直ありました。