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「例えばの話ですが、10億円の借金があった旅館が順当に返済を進め、残高が5億円になったとします。もう少し頑張ればゼロになる。これが経営ですよね。ところが、新型コロナでお客様が来なくなりました。でも、残りの5億円の返済を、金融機関は待ってくれません。借りないと返せないから、借金返済のためにもう5億円借りるのです。すると、残額は10億に戻ってしまいます。さらに能登半島地震が起き、収入が1円もなくなりました。10億円の借金を返すために、今度は10億円を借りる。あっと言う間に借金が20億円に膨らむのです」

 恐怖のシナリオだ。10億円だった借金が、気づいた時には2倍に膨らんでいる。頑張って減らした段階からだと4倍に増える。高利貸しに借りたわけでもないのに、新型コロナと能登半島地震のダブルパンチがいかに深刻だったか。

「金融機関からすれば当然、『いつ返せるのか』『お金もないのに本当に返せるのか』という話になります。『貸しはがし』が始まったら、もう存続は無理ですね」

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「ランプの宿」に向かう海岸では、津波に襲われた家屋が無残な姿をさらす ©︎葉上太郎

創業445年「ランプの宿」の長い歴史

 このような苦境にあるのは、刀禰さんだけではない。

「能登半島の宿泊拠点になっている和倉温泉(石川県七尾市、#5)では、多くの旅館が営業できなくなっていて非常事態です。知らない人は『保険で何とかなるのだろう』と簡単に考えるかもしれません。しかし、事業所には基本的に地震保険が存在しないのです。石川県は、地震で被害を受けた中小企業・小規模事業者等を対象に上限15億円の補助制度を設けました。残念ながら、15億円という金額で和倉温泉のホテルが建て直せるかというと難しい」と、危機感をにじませる。

 刀禰さんが経営する「ランプの宿」には極めて長い歴史がある。

 先祖は、琵琶湖(滋賀県)の水軍だったと伝えられている。平家が壇ノ浦の戦い(1185年)で破れ、一門の平時忠が能登へ流罪になった時、行動を共にしたのだという。忠時の墓は珠洲市にある。

 刀禰家は北前船の海運業に従事したほか、宿も営んだ。宿の創業は戦国時代の1579年とされ、今年で445年になる。

日本海を見下ろす高台に、幻想的な洞窟…半島の最先端の“絶景”

「ここは能登半島の最先端です。近くにある禄剛埼(ろっこうさき)灯台が先端と思われていますけど、こちらに灯台が建てられる予定が、漁民の皆さんの反対で禄剛崎に変更されたのです」

 それだけに絶景だ。

 14部屋の客室は荒々しい岩が印象的な小さな入り江に面している。高台に設けた展望台から日本海が見渡せる。そのすぐ近くで売店を営業しており、年間約20万人が訪れるのだという。海岸の洞窟に下りると、幻想的な明かりに照らされた洞内に、波の打ちつける音が響く。

幻想的に照らし出された洞窟の内部 ©︎葉上太郎

「地震がなければ、ミュージアムを併設した客室も建設する予定でした」と、刀禰さんは語る。