未解決の謎をめぐる推理劇
この小説のスタイルもまた独特なものだ。主な登場人物はたったの三人。卒寿をむかえた老人と初老の男、それに若い女性による会話劇がひたすら進行していく。その舞台とは、メイン州の海岸に浮かぶムース・ルッキット島。ふたりの男とは、ウィークリー・アイランダー紙の発行人、九十歳のヴィンセント・ティーグと六十五歳のデイヴィッド・ボウイである。そこに加わるのがオハイオ州立大学の就業体験研修(インターン)としてやってきた二十二歳の女性ステファニー・マッキャンだ。
かつて、ヴィンスとデイヴは、不可解な事件に遭遇し、調査を続けた過去があった。一九八〇年四月二十四日木曜日の朝、島のビーチでひとりの男の死体が発見されたものの、身元を明かす品はなにもなかった。ところが、当時、やはり就業体験研修(インターン)で州警察刑事のもとで働いていた若い男ポール・ディヴェインの働きで、死体の男はコロラドに住むジェイムズ・コーガンだと判明する。
だが、そこでさらに新たな謎が生まれた。コロラドからメイン州の島までは三千三百キロ以上離れている。最後に姿がコロラドで目撃された時間からわずか五時間後に出現した計算となるのだ。いかなる移動手段をつかえば、それが実現できるのだろうか。
身元さがし、逆アリバイくずし、死因、動機など、次から次へわきでる謎や疑問をめぐり、警察はじめ関係者による果てしない探求がおこなわれた。三人による会話の形でその過程がじっくりと語られていく。もちろん、そこは名手キング、単調な語りでは終わらない。死体発見当日の具体的な様子から、コロラドから来たのかを知る手がかりについての意外な経緯、興味深く話を聞く女性ステファニーの疑問やときおり見せる脱線を含め、会話による見事な推理劇を披露している。