モデルがいるドラマを書くときのポリシー
――モデルの三淵さんは法律婚をしていますが、寅子と航一(岡田将生)は事実婚を選択します。評伝ドラマと、実在の人物をモデルにしたドラマをどのように捉えて書いていますか。
吉田 モデルがいるドラマを書くにあたっては、モデルとなる方の根底の部分とずれがないか、を大切にしました。三淵さんは男女平等と女性の社会進出のために、様々な発言や行動をされました。三淵さんが問題だと思ったことがすべて解決していたら「当時はこうでした」と書けますが、未解決のまま70年近く過ぎています。
寅子と航一を法律婚させるかどうかは、とても悩んだところです。主人公が語る言葉は正解に見えてしまうし、なにより寅子という人を描いてきて、佐田姓やそれまでの自分の実績を捨てることを幸福だと感じるタイプとは思えなかったんです。
私も今まで、朝ドラが始まるとモデルになった人について調べることがよくありました。するとお妾さんには触れていなかったり、国籍を変えていたり、エンタメの都合で変更している部分に気が付きます。その時の時代性もあることですし正解はない。制作陣が責任を持つ取捨選択ですが、モデルをどう描くかの問題ですよね。
私も寅子に事実婚をさせたことが100点の答えだとは思っていません。今の私のベストを書きましたが、来年の自分は別の視点を持っているかもしれませんから。選択的夫婦別姓制度がなぜ未だに実現しないのか、私も本当に疑問ですが、ドラマをきっかけに議論していただけたらと思います。『虎に翼』を好きではないという方も、見続けてくださるだけでありがたいです。
――「血縁を前提とした家族という言葉はあまり好きではない」とも過去におっしゃっています。
吉田 本来は互いにリスペクトしあって、ケアしたりされたりするのが家族だと思います。あまりにも「親だから」「子どもだから」と、呪いのようになってしまうのが嫌なんです。
私自身は今、小さい息子を育てていますが、母がとても助けてくれています。今までも忙しい日の平日の夕飯は母が作ってくれていましたが、朝ドラが始まってからは栄養バランスを考えた夕食を平日毎日作ってくれるんです。だから朝食は「バナナ2本がいい」と息子が言っても、それもいいか、と思えます。そういう意味での安心感がありますね。
保育園のお迎えも「ばあばでもいい」と言ってくれて。お風呂は私か小学5年生の姪っ子としか入りません(笑)。執筆中に息子が熱を出して早引きすることもありましたが、家族の支えと息子の頑張りで、仕事ができています。