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ポジティブな人が期待するシナリオとは

 ここまで話しても、「それでもまだまだ都心湾岸立地のタワマンは値上がりするはずだ!」と叫ぶ人がいるかもしれない。もちろんそういう威勢のよい人があってこそ成立するのが投資マーケットだ。ではポジティブに考えてみよう。

 まず期待利回りが4%、というのがコンサーバティブ(私はそうは思わないが)だとしよう。現在の賃料相場だと2.3%台。これが将来は1%台にさらに下がる(1%台であっても買う人がいる)、というシナリオを描けば投資は吉だ。あるいは現在の賃料相場は低すぎるのでこれからは期待する利回り4%の賃料(住戸Aで59万円、住戸Bで75万2000円)に値上がりするとみるのも自由だ。

 ただ政策金利が上がり、こうした物件を取得するためのローンコストは今後、上昇基調だ。現在の売却希望価格で取得すること自体がすでに期待利回りが2.3%、その期待がさらに下がることは、そうした価格でも買いたいという人がいるという前提に立つこと、または金利上昇は一時的で今後は低金利になる、と予測するしかない。ただ、金利はすでに史上最低水準から脱しつつあるし、湾岸タワマンの賃料が月額75万円になることを夢想するのは結構だが、賃貸はあくまでも実需の話だ。それだけの値上がりを実需に期待できるほど、現代日本人の収入は高くはない。

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 日本ではこの先も金利は上がるわけがない! となぜか断言してしまう人もいるが、期待利回りは将来、テロ、戦争、パンデミック、大地震、噴火などの大災害が起きればあっというまに跳ね上がる。金融マーケットは常に世界の金融マーケットにリンクしている。現行の低金利状態がこの先も長く保証されているわけでは決してないのだ。

 こうしたことを鑑みるに、実はこのタワマンの分譲時の価格はこの5年を振り返る限りにおいて、正鵠を得たものだったのだ。表面利回りで5%台を確保していたのだから。これを2%台でエグジット(売却)したいという現在の売主の心理は、やはりかなりのお花畑状態にあるといってよい。

晴海フラッグの現状は

 実は板状棟の分譲引き渡しが終わった晴海フラッグで同様の現象が起こっているという。ここは今回の事例のタワマンよりもさらに立地条件が悪く、賃貸住戸に反応する人が極めて少ない、つまり賃料相場が低い、あるいは需要自体を見込めない状況にあるという。つまり、不動産投資としては最初から「失敗」なのである。

晴海フラッグ ©時事通信社

 でもそんなに悲嘆にくれることもない。マンションは所詮「人の住むところ」であるからだ。湾岸の海風に吹かれながら充実した、心豊かな毎日が送れるのならば、そしてどんなに多額のローンであっても、自身の収入から返済ができるのであれば、何の問題もないのである。