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 痛い思いをしたわりには、マンモの結果はシロだった。

 次のエコーでようやくそれらしきものが発見されるが、1.5センチくらいの塊で良性か悪性かは不明。

 さらに今回の主な症状である分泌液について、採取して調べる。

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 どうやって採取するかって? マンモで潰されて出てきたものは看護師さんが拭いてしまったから、また新たに出し直すわけだ。

 イケメン先生が、謹厳な表情のまま、やにわに両手で私の右乳房を掴んだ。そして力を込めて搾る。

 痛い、痛いってば……。あたしゃホルスタインじゃないよ。

「頑張ってくださいね」と相変わらず看護師さんの牧歌的な声。

 ようやく搾り出した微量の分泌液をスライドガラスに載せたところで、この日の検査は終了。

 エコーの結果を見ながら先生から「五分五分ですね」という慎重な言葉をもらう。

 乳腺クリニックを受診して4日後、甲状腺腫瘍の再穿刺の結果が出たのだが、こちらも相変わらず灰色、厳重観察のままだ。

 あっちもこっちも灰色かよ、とやさぐれつつ62という自分の歳を想った。もう決して若くはないが、死ぬにはやや早い。

 加齢とともに細胞の正確な複製能力が落ちてくることを思えば、還暦過ぎの人間の身体に五分五分の確立でがん細胞が存在するなど当たり前のことなのだが。

結果待ちの間にしたことは

 それではそろそろ準備した方がいいかと、ネットで日本尊厳死協会のホームページを呼び出す。

 そんなものに入っていたって、いざ、容態が悪くなれば、病院と家族のやりとりで延命が決められてしまって本人の希望通りにはならない、という話はよく耳にする。だが何も意思表示せずに、鼻管栄養、胃瘻、点滴、人工呼吸器、ついでに身体拘束も入って、拷問のような数カ月を過ごして死ぬのは御免被りたい。

 送られてきた申込書を読むと、リビングウィルの内容が、意外に詳細で具体的なものだとわかった。それまで漠然と「尊厳死」といってもなかなか本人の意思が反映されなかった事例を踏まえてのことだろう。

 グッドタイミングかバッドタイミングか、ちょうどその頃、まさにその「尊厳死」をテーマにした小説『死の島』について、作者の小池真理子さんと対談する企画が飛び込んできた。

 即座に「グッドタイミング!」と引き受けるのが作家の習性だ。取りあえず、「こんな状態で、ただいま結果待ちです」と担当者にメールを打つ。

 数日後、携帯に小池真理子さんから電話がかかる。病状を心配してくださり、力になれれば、と具体的な申し出をいくつかしてくれる。社交辞令ではない真摯な言葉にはいつも心を打たれる。