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「節子さん、巨乳じゃないよね」「どっちかっていうとヒン…」

 その翌週、乳頭からの分泌物の検査結果が出て、いよいよ乳がんの疑いが強まり、針生検に進む。昔なら組織を切り取って検査に回したところだが、今はマンモトームという機会を用いて病変部分に針を刺し、組織を吸引して採取する。針といっても直径3.4ミリはある太いものなので、局部麻酔をし、先生が画面を見ながら、えいやっ、とそれらしき部分を狙って刺す。その後、ズズズっという音とともに組織が管に吸い込まれる。もちろん麻酔が効いているから痛みはないが微妙な気分だ(ちなみに甲状腺穿刺の方は麻酔無しで針を刺されるので痛い)。

 このマンモトームによる生検によって最終的に結果が出て、旅行先の熱海に電話がかかってきた、というわけだ。もちろん電話で結果を告げられることはなかったが、この時点で「クロ」は確定。

 まあ、命を失うことはないだろうが、この先、手術、放射線、抗がん剤治療等々で辛く不自由な生活が始まると思えば、お楽しみは今だけさ、という刹那的気分にとらわれる。

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 胸に秘めた恋などあれば、どこぞの殿方にメールを送っているところだが、還暦過ぎの身にそんなロマンはない。

 自宅で留守番している亭主に電話で報告した後は、インフィニティプールで夕陽を眺め、温泉に浸かり、夕食のブッフェで美容にも健康にも悪そうな、高脂肪、高カロリー、高コストの料理を皿に取りまくる。

 それはともかく、乳がんは発見さえ早ければ9割は助かる、と言われ、どこの自治体でも乳がん検診に力を入れている。

 その際、触診とマンモグラフィーは基本で、私自身も受けていた。だが毎回、異常なしという結果だった。今回、乳腺科で受けた検査でさえ、触診とマンモで異常は発見できなかった。

写真はイメージ ©AFLO

「あのさぁ、節子さんとお風呂入ったことはないけど」と電話で話した折に小池真理子さんが口ごもった。「節子さん、巨乳じゃないよね。大きいとマンモに写りにくいって話だけど、どっちかっていうとヒンだよね……」

 おいっ、こら!

 ヒンだからといって全部が全部写るわけではない。だがエコーには捉えられた。

 逆にエコーでは何も発見できず、マンモグラフィーで見つかる場合もあるらしい。