頼りになるリエゾンナース
待合室に戻り、渡された問診票に記入する。再建を決めた動機や、再建後に何をしたいかといった内容を問うものだ。
「子供と一緒にプールに行きたい」「温泉に行きたい」「すてきに服を着たい」「水着を着たい」「海で泳ぎたい」などなどの項目が並んでいる。「子供と一緒にプールに行きたい」の項目には、待合室にいた若いご夫婦の姿が瞼に浮かび切実さに胸を衝かれる。
「温泉に行きたい」については、病院の売店に行けば、乳がんの手術痕を隠すための専用タオルなども売られている。だが、その程度のことなら再建するしないにかかわらず、堂々と入ったらどうだろうか。以前、片方を切除した友人が「周りの人をびっくりさせるのは悪いから」と日帰り温泉旅行を断ってきたことがあったが、「ああ、たいへんだったな」と思いこそすれ、今どき他人の手術痕にびっくりする女などいないだろうに。
「ママ、あのおばちゃん、おっぱい片方無いよ」と知らない子供に指を差されたら、「ああ、これはね」と説明してやるもよし。ひとつ知識を増やしてやれる。
問診票を記入した後、看護師さんと面談する。この仕事にはいかにも適任な感じの、落ち着いた年代の方だ。気遣わしげな面持ちの看護師さんに再建の動機や今の気持ちなどについて尋ねられる。
「体力作りのために水泳をやっていますが、いずれ、スイミングクラブのマスターズ大会に出たいので」と答えると看護師さんの顔がぱっと明るくなった。
「それは良いことです。頑張ってください」と激励された。彼女たちは「リエゾンナース」と呼ばれ、乳がん患者のメンタル面のサポートについて、患者の相談に乗ってくれたり、ケースによっては、精神科、心療内科の先生につないでくれたり、といった役割を担う頼りになる存在だ。
術後のブラジャー選び
こうした精神面のサポートに加えて、看護師さんからは手術後のブラジャー選びについてもアドヴァイスを得られる。再建手術後は内出血や痛みを避けるために乳房の揺れを防いで固定する必要があり、以前は胸帯を着用していたが、現在は専用のブラジャーが開発されているのだ。
用意してあるサンプルを見せてもらいながら、その場で試着。国産の華奢なデザインのものは骨格の大きな私にはサイズが合わず、チェコ製の8つものフロントホックが付いた、鎧のようなものものしい代物、しかもXLサイズを手術前日までに売店で購入することになった。1つ5500円、洗い替えを用意すると1万1000円の支出。トリンプ、ワコール並の値段で医療用ブラジャーが買えるのはありがたい。もっともGUヘビーユーザーの我が身にとっては十分高額だが。
それにしても検査と診察、専門医の先生方との面談の他に、望めば精神面でのケア、術後の下着選びに至るまで、乳がんの手術を控えてトータルに準備や相談の体制が整えられていることにただただ驚く。