高井係長は言う。
「(飼養管理基準省令制定以前の)基準があいまいで、不利益処分に踏み込むことが非常に難しいと、職員皆が誤解していた。以前の基準でも、実際にはもっと強い指導、処分ができたのに、残念ながらそういう認識に至らなかった」
半数程度の自治体しか立ち入り検査のめどが立っていなかった
検証を受けて長野県は、行政指導や不利益処分を円滑に行うための「実施要領」を制定。「2回の指導を行ったにもかかわらず改善が確認できない」時点で「始末書」などを提出させることにした。それでも改善が見られなければ勧告へと進む。
「指導の回数に上限を設け、抜き打ち検査の活用なども決めた。今回のような事件を二度と起こしてはいけない。再発防止に努める」(高井係長)
長野県の検証結果は22年春、環境省を通じ、動物取扱業者の監視・指導にあたる全国の自治体に配布された。同省動物愛護管理室は「繁殖業者やペットショップへの指導、監督体制の充実を図りたい」とその意図を説明した。
アニマル桃太郎による大規模な動物虐待事件の発覚を受けて、関係者の間では、業者を指導、処分できていなかった長野県や松本市の責任を問う声とともに、全国の自治体の現場で、飼養管理基準令が適切に運用できているのかどうか、不安視する見方が広がった。そこで私は2021年12月、動物愛護行政を担うすべての都道府県、政令指定都市、中核市に対して調査を行った(129自治体、回収率100%)。
繁殖業者やペットショップに対する監視や指導を担う自治体はそのうち107。飼養管理基準省令を適切に運用するカギとなる業者への立ち入り検査について尋ねると、21年度中に全業者への立ち入りを終える自治体は35にとどまった(予定も含む)。経過措置が設けられた飼育ケージの最低面積(容積)にかかわる基準などが施行され始める、22年度中に終える予定の24自治体をあわせても、5割強程度しか立ち入り検査のめどが立っていなかった。