「これで、リキさんの命は取らないでほしい」
円山町の約束しておいた料亭に、東富士をはじめ花田らが集まった。
「席に着きなさい」
花田は、そう言うと、座卓の上に、懐から拳銃を出して置いた。
花田に合わせ、安藤組の他の6人がそろって拳銃を取り出し、座卓の上に置いた。おれたちは、中途半端な気持ちでかけあいをしているんではない、ということを見せつけたのである。
7丁の拳銃が並んで置かれると、さすがに威圧感があった。
東富士らは、顔を強張らせ、震えあがった。
5日後、大塚のところに、東富士から電話が入った。
「約束どおり、50万円つくった。これで、リキさんの命は取らないでほしい」
大塚は、東富士の誠実さに免じて答えた。
「わかった。受け取る場所を、おれは指定しない。おまえのほうで、場所と時間を言え」
もしこちらが場所を指定すると、恐喝になる。
「では大塚さん、新橋へ出て来てくれ。第一ホテルと虎ノ門の間に、『エトランゼ』という小さなバーがある。そこに、夕方の6時に来てくれ。ただし、1人で来てほしい」
「おれは東富士を信用している」
大塚は、さっそく『東京宣伝社』(花田瑛一と森田雅がつくった会社)に顔を出した。
そこにいた花田と森田にそのことを話すと、森田雅が制した。
「大塚、1人で行くのは、やめとけ。危険だ」
花田も心配した。
「金を受け取ったあと、カウンターの中に隠れていた警察に、現行犯で逮捕されるぞ」
が、大塚は言い張った。
「大丈夫だ。おれは、東富士を信用している。1人で行くよ」
大塚は、東富士が100万円払うといったのを、あえて自分が50万円でいいと言ったことを花田らに隠しつづけていた。東富士との密約があるかぎり、東富士は裏切ることはありえない。そう固く信じていた。
花田が言った。
「わかった。おれたちは、バーの中までは入らない。ただし、おまえのことが心配だから、バーの近くで待っている。もし金のやりとりで御用になりそうだったら、急いで店の外に出ろ。おれたちが、拳銃で威嚇するからな」
約束の夕方の6時、大塚は、花田らと『エトランゼ』の近くに車を止めた。かすかに小雨が降っている。
大塚だけが降り、店内に入った。花田と森田は、店の近くに待機していた。大塚が店内に入ると、東富士が1人で待っていた。