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両国にある東富士の家で面会し、事情を説明すると…

 大塚は、東京に帰ると、東富士と両国の彼の家で会った。

 東富士に事情を話し、20万円渡した。

「50万円は取れなかったが、せめて20万円は取ってきた。これだけで申しわけねえが、受け取ってくれ」

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 東富士は、20万円を返しながら言った。

「大塚さん、おれは50万円あんたに渡したんだから、一銭もいらないよ。この20万円、あんたの小遣いとして取っておいてくれ」

「いや、東富士、そうはいかない」

「大塚さん、鹿島への旅費だってかかっているんだから」

「東富士、そういわねえで、取っておいてくれ」

 東富士は、結局20万円を受け取った。

写真はイメージ ©NOBU/イメージマート

東富士の徹底した気遣い

 ところが、のちに、『純情』のボーイの1人が、安藤組が東富士や力道山との間で話し合いしていたことを知らないで、別件で警察に捕まった。

 その男は、さらに、円山町の料亭で東富士らを前に、安藤組の7人が、座卓の上にそれぞれ7丁もの拳銃を取り出して脅したこともしゃべってしまった。

 その7人と安藤に、令状が出た。

 安藤が言った。

「ひとまず、ズラかろうぜ」

 安藤、花田、大塚はじめ5人で、北関東へ逃げた。12月の寒いときである。そのうえ、逃げる先は、北関東である。

 大塚は、逃げる寸前に東富士に連絡を入れた。

 東富士は、わざわざ見送りに来てくれた。

「手違いから、大塚さんたちにごめいわくをおかけしまして。寒いところへ行くんだから、厚手の下着を着て行ってください」

 買ってきた下着を、みんなに渡した。東富士が被害者で、大塚らが加害者なのに、東富士の気の遣い方は徹底していた。

 大塚は、あらためて思った。

〈この男は、なんという心根が優しいんだろう〉