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劇団〈状況劇場〉の紅テント

 2024年5月に84歳で鬼籍に入った唐十郎は、24歳で劇団〈状況劇場〉を率いて劇作家としてデビュー。27歳で、各地に紅テントを張って公演を行うスタイルを確立させ、演劇界の革命児と呼ばれる。劇団は、根津甚八や小林薫、佐野史郎、李麗仙――などを輩出した。

大阪の難波に作られた唐組の紅テント ©いまじん 蒼玄社 2007

 と資料を書き写しながら気付いたことがある。

 評者自身は、唐十郎の紅テントの興行を一度も見たことがなかった。小劇場ブームと言われた、80年代から90年代にかけて、つかこうへいや、井上ひさし、野田秀樹などの本を読み、舞台にも足を運んだ。

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 しかし、紅テントとはちょっと距離を持っていた。それは、この映画が描き出す、唐十郎の泥臭さ、アングラっぽさに対する拒否感からではなかったか。けれども、この映画を観ていると、そんな毛嫌いせずに、紅テントの芝居を観ておけばよかったという苦い後悔を味わうことになった。

まるで劇中劇のようなドキュメンタリー

稽古中の唐組を見詰める唐十郎=手前 ©いまじん 蒼玄社 2007

 この唐十郎、いつも、吞んでいる。というより、この男は、毎日のように酒を浴びるほど呑む、正真正銘の呑んだくれである。

 呑み会がいつはじまるのかは、唐十郎の気分次第。いつも唐突にはじまる呑み会に、劇団員は辟易と、いやいや戦々恐々としている。

 呑んでも芝居の稽古をつける。役者が脚本を読みはじめると、最初はニコニコと笑顔を見せるが、それが阿修羅のような形相に変わるのはほんの転瞬のこと。瞬間湯沸かし器のように、容赦なく怒鳴りちらす。

「違う!」

「下手くそ!」

「ウタい過ぎなんじゃないか!」

「メタファーがないんだよ!」

 劇団員に対する怒声に気圧され、カメラを回すのをやめると、今度は撮影者に檄が飛ぶ。

「なんでこれをカメラは撮らないんだ。なにやっているんだ! カメラ!!」

 その文脈で、冒頭に出てきた、唐十郎の大島新に対する怒声が稽古場に響き渡る。

「なにを取材しているの、ここで! 帰れよ!!」

 だが、その30分後には機嫌を直してこう語る。

「さぁさぁ、こっち来て。さっきはちょっと険しくなっちゃったけどね。コップ、コップ」

 そう言って、大島とコップ酒を酌み交わす。唐十郎が呑むのは、いつものようにボトルに入った〈いいちこ〉だ。

 これは本当にドキュメンタリー映画なのか? それとも劇中劇なのか?

 不思議な錯覚に陥る瞬間だ。