泣かせてしまうシーンだから冷麦を茹でるのが大事
中島 私の母は91歳で、3年前から同居を始めたんですが、母も読書会をしているんです。
朝倉 そうなんですね!
中島 大学の先生を長いことしていたこともあり、母が毎回レジュメを作っているようです。「みなさん読んできてください」とは言うけれども、読んでいなくても参加してしまって良くて。母がレジュメを見ながら解説なんかをして、参加者は感想を発表する、みたいな会らしいんですね。
朝倉 読まなくても参加していい、というゆるさがいいですね。
中島 女学校の同窓会が母体らしく、女の人ばっかりなんです。
朝倉 『また、あなたとブッククラブで』という読書会を題材にした映画があるんですが、それもメンバーは女の人たちだけで、男が入ってくると威張ってしまってダメ、というセリフがありました(笑)。
中島 『よむよむかたる』の〈坂の途中で本を読む会〉には男性も女性もいますが、みんな威張らないいい人たちですよね。ちょっと驚いたのは、課題図書を読んで感想を言い合うだけじゃなくて、最初に朗読をするじゃないですか。読書会で朗読ってあまりイメージがなかったんですが、お母さまの読書会がそういう形だったんですか?
朝倉 そのへんの段取りは小説に書いたまんまです。母親が家で自分が読むパートの練習をしているのをよく見ていたんですが、声を出すこと自体が気持ちいいし、声に出すことでいろいろな気づきがあるみたいですね。
中島 朗読を終えた後で、感想を言い合って。
朝倉 読書会ですから小説の感想を言い合うはずなんですが、いつのまにかみんな自分の思い出話を始めます(笑)。同世代なので自分の若い頃、子どもの頃の話もできるというか、会話が通じるんです。だから楽しいのかも。
中島 私は一度だけ、自分の本が課題図書になった読書会に参加したことがあるんです(『樽とタタン』)。批評家みたいな人だと「ここに書かれているこれは~」というふうになるけれども、一般の方は自分に引きつけて読むというのがほとんどだから、個人的な思い出をたくさん話してくださった印象があります。
朝倉 私も一度、『平場の月』で同じような読書会を開いてもらったことがあるんですが、自分の書いたものが、読者さんがいろいろなことを思い出す装置になっているんだなと感じましたね。
中島 その感じが、小説にすごくよく出ていると思う。読書会を通して、それぞれの人生の話も描かれていくじゃないですか。夫婦で参加しているまちゃえさん(増田正枝)とシンちゃん(増田晋平)、思い出の中だけに出てくる息子の明典さんの話は、もう……。明典さんにまつわる秘密が明かされるシーンで、登場人物が冷麦を茹でているんですよね。あそこがすごい。
朝倉 あそこは私も、やってるなと思いました(笑)。