朝倉 ウイルス対策は苦手だった(笑)。では、そろそろYouTuberになるんじゃないですか?
中島 母はカルチャーセンターの講師もしているんですが、コロナ禍の時に、教室に行けない人のためにオンライン配信も始めたんですね。ある時、部屋でガサゴソ音がして、友だちと長電話しているのかなと思って覗いてみたら、自分の動画をチェックしていました。
朝倉 そんな人、小樽にはいないかも!(笑) 東京のおばあちゃんって感じがして、面白いです。
中島 東京にもあんまりいないと思います(笑)。
朝倉 私、今よりもっともっとおばあさんになりたいんですよ。昔から、「老女作家」に憧れがあるんです。
中島 おおっ、宇野千代みたいな?
朝倉 宇野千代さんって、最初からおばあさんだったみたいな気がするじゃないですか。森茉莉さんもそうで、思い出す時はおばあさんの顔しか浮かばない。そういう作家に私もなりたいんです。そういう願望はないですか?
中島 それは、ない(笑)。
朝倉 私は少女だった頃、大人になっていくプロセスには無自覚でした。その時は目を逸らしたい変化でもありましたが、いまとなっては、しっかり観察しておけばよかったなと思っています。だから、自分が歳を取っていく変化は、しっかりと見つめていきたいという気持ちがあるんです。それを、小説でも書いていきたいなと。中島さんはそういう気持ちがあったりしませんか?
中島 それはありますね。私も、少女から大人になる時は何も考えていなかったんです。でも、おばさんになる時に、体の変化みたいなことから感情の抑えが利かなくなったりだとか、いろいろな変化が結構面白かったんです。おばあさんになる時何が起こるのかは楽しみですし、そのことは小説でも書いていければいいな、と。
朝倉 おばあさんになることは、自分にとって初めてだから面白いのかもしれないですよね。
中島 未体験のことですもんね。未体験という意味では、死もそう。それって怖いことですけれども、体験していないからこその興味もある。『よむよむかたる』は、歳を取ることやいつか死を迎えることの、上手な受け止め方を教えてくれる小説でもあると思うんです。
司会・構成:吉田大助
撮影:佐藤亘
あさくら・かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。2003年「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞を、04年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞し作家デビュー。09年『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞受賞。19年『平場の月』で第32回山本周五郎賞受賞。他の著書に、『ほかに誰がいる』『てらさふ』『満潮』『にぎやかな落日』など多数。最新作『よむよむかたる』。
なかじま・きょうこ
1964年東京都生まれ。出版社勤務などを経て2003年『FUTON』で作家デビュー。10年『小さいおうち』で直木賞受賞。14年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞受賞。15年『かたづの!』で柴田錬三郎賞などを受賞。同年『長いお別れ』で中央公論文芸賞、20年『夢見る帝国図書館』で紫式部文学賞、22年『やさしい猫』で吉川英治文学賞を受賞。近著に『オリーブの実るころ』『うらはぐさ風土記』など。