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中島 若店主の安田くんも好きでしたよ。新人賞を取って本も一冊出しているのに、「自称小説家」扱いされたことにちょっとイラついたりするところとか(笑)。

朝倉 私が年寄りたちを見ていて感じる驚きを、一緒に驚いて伝えてくれる、通訳みたいな人がほしかったんです。あと、小説を書いている人は、他の人が書いた小説の感想を簡単に言えない感じがするんです。安田くんも立派なことを言わなくちゃいけない、というプレッシャーを感じているというか……。

中島 「読めてない」とか言われるんじゃないか、とか。

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朝倉 それそれ! そういう自意識が安田くんを縮こまらせているんです。お年寄りたちみたいに、もっと好きなように好きなことを言えばいいじゃんと思ったんです。

中島 安田くんは、小説のオリジナリティについて悩んでいるじゃないですか。「あぁ、そうだなぁ」と思いました。小説家って無から有を作っているわけではなくて、記憶や体験などの何かから作っている。その何かが、自分だけのオリジナルなものとは限らないですよね。

朝倉 私、自分の書いたものがいつ盗作だと言われてもおかしくないと思っているんです。わからないんです、本当に。アイディアみたいなものが、いったいどこから来ているのか。

中島 きっかけは、どこかで読んだものかもしれないですし。

朝倉 本当にそう。われわれは、換骨奪胎派ですから(笑)。

おばあさんになる時何が起こるのか

中島 『よむよむかたる』の中で、お年寄りたちのセルフイメージは「ちょっとばかり歳を取った自分」という話が出てきますよね。ただ、「ちょっと」は人によって大きく違うという指摘、笑っちゃいました。

朝倉 うちのお母さんも鏡を見て、「わぁ、しわくちゃ」とびっくりしています。「これじゃあ、おばあさんでしょ」とか言う(笑)。

中島 最近、小さな壁にぶつかっているんです。私はおじいさんおばあさんが好きでよく書いていたんですけれど、みんな死んでしまったんですよね。今のおじいさんおばあさんって、団塊の世代くらいじゃないですか。私のイメージの中のおじいさんおばあさんではないんです。新しい世代のおじいさんおばあさんの「らしさ」を表現するのが、すごく難しい。

朝倉 確かに。

中島 団塊よりもずっと上の世代ですが、うちの母なんて普通にパソコンを使いこなしますし。

朝倉 90代でパソコン?

中島 この間「ちょっと、京子さん」とか言って私のところに来て、「またウイルスが入ったの」と。ウイルスが入って危険ですみたいな表示が画面にブワーッと出ていたらしくて、「だから私は消したの。一晩待ってみる。そうしたらなくなると思う」。いや、そんなことはないと思いますよ、と(笑)。