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朝倉 〈おみとりさん〉は私が勝手に作った言葉なんです。お友だちのお父さんが亡くなった時に、流しの付添婦さんについてもらったそうなんです。その付添婦さんに看取られると、安らかに逝くことができるという噂がまことしやかに流れていたみたいで。そこから〈おみとりさん〉というアイディアが生まれました。

中島 死とかあの世の存在を近くに感じる、お年寄りたちならではの読み方だなと思いました。『だれも知らない小さな国』にそんな読み方があるのかという驚きがあったんですが、そこには朝倉さんご自身の想像も入り込んでいますね。

朝倉 そうですね。私は児童文学に馴染みが薄かったんですが、この数年自分の中で児童文学ブームが起こっていました。ちょうど60歳ぐらいだったのかな、『だれも知らない小さな国』を初めて読んだ時に「これは〈おみとりさん〉のことを書いた物語だ」と思ったんですよ。そして、〈おみとりさん〉を出発点にしたらどんどん想像が膨らんでいきました。お話の細かい部分にまで死を感じ取っていただけたのだとしたら、それはお年寄りたちの話にしたからだと思います。

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中島 うちの母も、「あと何年生きられるだろうか」とか、「私が死ぬまでにどうする」みたいなことを、毎日言ってます。私の死んだおばあちゃんは、自分の葬式でどの和菓子屋から饅頭を注文するかとか毎日考えていました。それが年寄りの日常ってものなんですよね、きっと。

朝倉 彼らにとって死は一番気になることですし、自分が死ぬということをつい考えちゃうんだろうなと思うんです。若い人は、死なんて遠くにあるものだと思っていますから。

中島 『よむよむかたる』という小説自体が、『だれも知らない小さな国』を換骨奪胎した作品になっていますよね。私も換骨奪胎は好きで、よくやるんですよ。

朝倉 デビュー作の『FUTON』からそうですもんね。田山花袋の『蒲団』の換骨奪胎。だから、中島イズムです。私、中島チルドレンだから(笑)。

中島 いやいや(笑)。実は、私もコロナ禍中に子どもの本を読み直すということを、エッセイの仕事でやっていたんです。『だれも知らない小さな国』も3年前くらいに読みました。お年寄りたちがこの物語に魅了されていく様子がすごく納得できました。『だれも知らない小さな国』って、流れる時間がすごく長いんですよ。せいたかさんと呼ばれる主人公の男の子が、子どもの時に一瞬だけ見たこぼしさまたちと、大人になって出会い直す話。言い換えると、せいたかさんが成長するのを、こぼしさまがずっと待っている話なんです。

朝倉 気の長い話ですよね。

中島 そうそう。その時間の流れ方に本物感があるというか、「これは本当の話に違いない」と子ども心にも思ったし、大人になって読み返してもすごく染みる。大人が読んで響くものは、この小説の中に流れる時間かなと思ったんです。『よむよむかたる』には長い時間が流れていますし、新しい世代についての話でもあります。読書会のお年寄りたちがこぼしさまで、読書会が開かれるカフェの若店主の安田くんがせいたかさん、途中で出てくるちょっと不思議な女の子は『だれも知らない小さな国』で言うとおちびさんなのかな、と思ったりして……。

朝倉 そんな風に読んでいただけて嬉しいです。