意外なところで、日本の会社の「常識」は世界のスタンダードとズレてしまっていることがままある。9万部突破のベストセラー『世界一流エンジニアの思考法』が話題の米マイクロソフトエンジニア牛尾剛さんが、働くことをめぐるマインドリセットを提言する。
(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)
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計画の変更に不寛容な日本の会社
自分の常識は「他国の非常識」であったりすることは多々ある。
私は40代の頃、英国留学を3カ月していた時期があるが、「マーケットリーダー」というビジネス英語のテキストを使っていた。いろんな国の商習慣や文化習慣についても学べる面白い構成で、例えば日本人は時間厳守は当然という感覚だが、他の国だと時間通り待ち合わせに来るのが失礼という国すらある。
ブラジルの例だと、日本人より思っていることを率直に話すし、欧米ではイギリス人やデンマーク人はもっとダイレクトだ。総じて、インターナショナルチームではみな、日本人が気を遣うような場面でも、「これよりもこっちのやり方のほうがいいと思うんだけど」とはっきり意見表明をする。率直だが、「人格の否定」のニュアンスが一切含まれないので受け入れやすく、私もだんだん慣れていった。
こうした多様なスタイルを学ぶと、「常識ってなんだっけ?」という感覚になってくる。
日本人は計画の変更に不寛容だが、「リスクや間違いを快く受け入れる」マインドセットがあれば、計画自体が仮説でしかなく、変更され得るものだというマインドセットにつながる。「Be Lazy」のマインドセットがあれば、無理に全ての物量を納期通りリリースすることに本当に価値があるかを考え直すことができるかもしれない。
数カ月単位で方針が変わるマイクロソフト
私の職場では、エンジニアたちに降りてくる方針は数カ月単位で変わっていくこともよくある。状況は刻一刻と変化していくのだから、変化に対応することのほうがよっぽど大切だ。そういう環境下では、時間をかけて緻密な計画を立てることはばかばかしくなる。どうせやっていく中で変わるのだから。
強調しておきたいのは、「計画の変更」は悪ではない。現実をみて、フィードバックを受けて納期や仕様が変わっていくのはむしろ「善」ということだ。日本人はそうした変更を管理能力のなさと決めつけたり、責任を問う空気が強いが、それは逆につくり出すものを凡庸にし、生産性を下げ、働く人々のモチベーションを下げる要因ともなっている。
「不確実性を受け入れる」マインドセットをチームと関係者でシェアするだけで、各々が主体的に行動しやすくなり、生産性が高まるのである。