「仕事のできる人」はなぜ記憶力がいいのだろう? それは生得的な才能というよりは実は日々の習慣に秘密がある。9万部突破の話題書『世界一流エンジニアの思考法』の著者牛尾剛さんが、米マイクロソフトで最前線の開発チームで学んだ知見を伝える。
(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)
◆◆◆◆◆
「記憶」が苦手だったADHDの私
多くの人が関心のある「記憶力」の問題にフォーカスしたい。仕事ができる人は記憶力がいい人がほとんどなので、私は長年この方面にもコンプレックスを感じていた。
自分のバディのヴィンセントを見ても、キャリアは長くないが、一つひとつの物事を理解してやり遂げるのが速く、細かいことを非常によく覚えている。人生で出会ったもっとも賢い男ポールはもう意味不明なくらい記憶力があって、なんでも明確に答える。マネージャのプラグナは、資料なしの会議でも情報をクリアに整理して、解像度高く物事を把握している。
記憶力のよさが彼らの仕事のスピード感を生んでいることは確かだ。コンピュータの挙動に置き換えてみても、メモリ容量の大きいコンピュータは動作が速い。メモリが少ないと、データの読み出しにも、作業時にもいちいち動作が遅くなるものだ。
私は以前、ADHDと診断されたこともあり、この障害は脳の短期記憶の領域が少ない。それもあって記憶することが苦手で、例えば大事な情報はどこかに書いておくとかして、極力自分の脳のメモリを専有するのを避けてきた。でもよくよく考えれば、そんな自分も受験のときはしっかり勉強しているので、大学に合格する程度には記憶できるはずだ。
このことを考えると、なぜ自分がコンサルタント、エバンジェリストとしては成功したのかがはっきりと見えてきた。
これら「自分がやらない」職業に関しては、記憶力のよさはいらない。コンサルタントの、いわゆるクイック&ダーティの世界では、記憶力やその緻密さはさほど必要ないのだ。勉強は必要だが、新しいことの概要を素早くつかむ能力が重要で、学びそのものは細かくある必要はない。むしろ記憶力があまり達者でないほうが古いことにこだわらずさっさと次に向かって進めるので「向いている」とすら言える。
私のようなタイプの人は、記憶が厳密でなくても回せる職につくと楽しくやっていけるだろう。事実、私もそれらの職種では“努力”した覚えがない。
しかし、自分がやりたいのは「プログラマ」であって、子供の頃からの執念であり夢だ。だから、自分のネイチャーに反して、「記憶」という大問題に真剣に向き合うことにしたのだ。