手先が器用なナカニシさんが、腕によりをかけて作ったのが「エイリアン弁当」だった。その弁当を作っている時に、気が付いた。「これ、めっちゃ楽しい!」。娘に見せる時も、怖がらせるという当初の目的を忘れて、「こんなんできてんけど、見てみて!」というテンションだったという。
いざ、実食。弁当箱を開けた娘は驚くでもなく、真顔で「ありがとう」と言った。ナカニシさんが「どうする? こういうの作る?」と尋ねると、一言。
「いや、ええわ」
期待した反応……のはずだったが、ナカニシさんの胸の内には新たな火が灯っていた。
「もっとグロ弁を作りたい!」
グロ弁とは、グロい弁当のことである。保育園に弁当を持参する日は月に一度しかないため、自分のために作り始めた。
「娘が寝た後に弁当を作って、仕事が終わって帰ってきたら自分で食べてました。その後すぐにスーパーに行って、これは髪の毛によさそうとか、唇によさそうとかグロ弁用の食材を買って、また夜に作るということを繰り返していましたね」
凝り性のナカニシさんが作るグロ弁は、どんどん進化していった。例えば、肌の色を気味悪くするために、アボカドをすり潰したものを白米の上に塗る。時間が経つと黒ずんできて、理想の色に仕上がるそうだ。最初はハムを使っていた唇も、よりリアルにぬめり感を出すために塩辛を採用した。
グロ弁をブログに載せると次第に読者が増え、コメントがつくようになった。それが嬉しくて、ますます力が入った。
「もっとリアルに!」という探求
「私、なにしてんのやろ……」と我に返ったのは、グロ弁を作り始めて数カ月経った頃。見た目を重視した結果、日に日に弁当が不味くなっていることに気づいたのだ。わざわざ不味い弁当を作っている自分に疑問を抱き、急速に熱が冷めたナカニシさんが次に目を付けたのが、日持ちがするお菓子だった。
最初に作ったのは、指クッキー。裁ちばさみで指を根元から切ったような見た目で、爪の生え際から血が滲み出ている。ナカニシさんは娘を驚かせようと、おやつの時間に指クッキーをたくさん入れたコップを用意した。ところが、娘はなんのリアクションもなく、普通に食べてしまう。それが悔しくて、「もっとリアルに!」という探求が始まった。