自販機という救世主
「みんなつらい状況だし、仕方ないか」と考えていたナカニシさんだが、注文が減って暇になり、ある課題に思いを巡らせているうちに、点と点がつながった。
中西怪奇菓子工房は受注生産のため、工房に商品の在庫はない。しかし、テレビなどを見て工房まで訪ねてきて、「売ってほしい」という人が後を絶たず、「受注制作やから、ないんです」と帰ってもらうことが続いた。
それが「申し訳ない」という気持ちもあり、かつては店舗を作ることも考えた。そのためにひとりで運営しているケーキ屋などを視察に行った際、自分にはお菓子の制作と接客を同時にすることはできないと実感した。
コロナ禍になり、しばらく放置していたこの課題と向き合った時、「コロナ禍で自販機が増えている」というニュースを見て閃いた。
「自販機いいやん! お店代わりにもなるし、お客さんも好きな時に買いに行けるし!」
鶴の一声でとんとん拍子に話が進む
以前から、「うちのお菓子、空港のお土産にならないかな」と考えていたナカニシさんは、商工会議所の知人に、工房からほど近い大阪空港に自販機を置いてもらえないか聞いてもらった。すると、「置くスペースはあるけど、場所代が高い。宣伝として置くならいいけど、売り上げにはならないだろう」と返事があった。
その条件では難しく、どうしようかと考えていたら、空港の件を相談した知人が別の話を持ってきた。大阪モノレールの関係者にも話をしたところ、興味を持っているという。
それから長い、長い話し合いが始まった。例えば、乗客から「気持ち悪い」とクレームが入った時にどうするのか。一時期は、商品を見せずに売ることも検討していたという。自販機のデザインも議題に上がり、中西怪奇菓子工房のオリジナルキャラクター「もぎ取る君」を使用したポップな案3つに加えて、大々的に目玉を使った案をひとつ入れた。
ナカニシさんは目玉のデザインを推していたが、リスクを考えれば無難な「もぎ取る君」のデザインになるだろうと考えていた。その時、目玉のデザインを強力に後押してくれたのは、意外な人物だった。