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端島の石炭は「ガスが多くて自然発火しやすい」という危険性も

端島は、炭質と炭層に特徴があった端島で産出される石炭は、強粘結炭という性質の石炭だった。

石炭は一般的に炭化の度合いで分類され、最も炭化が進んだ石炭を無煙炭という。炭化度は、無煙炭に劣るが、火力の強い石炭が瀝青炭(れきせいたん)で、特に上質な瀝青炭が強粘結炭だ。この強粘結炭は燃やした時の火力が非常に強く、製鉄などで必要となるコークスの原料にも用いられ、石炭の中では最も価値が高い。特に端島の石炭は灰分や硫黄分の含有が少なく、日本一の品質との評価を得ていた。

一方、不純物の含有率が低いことで、石炭の微粉化率(物体が細かくなる比率)が高くなり、自然発火の傾向が強かった。炭鉱ではガス湧出量も多く、ガス突出(岩盤を破ってガスが吹き出すこと)が起こりやすいというリスクも抱えていた。

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鉱夫たちが竪坑を通って坑底まで降りる「海の下の炭鉱」

端島で産出した石炭の用途は、まずは製鉄業やガス工業向けが半数以上の割合を占めていた。日本の鉄鋼業では、世界の各産地から原料の石炭を輸入し、それぞれの石炭を配合することで安価かつ高品質のコークスを製造していた。端島の石炭はコークス製造時に生成されるガスも燃料として重宝された。そのため、複数の大手ガス会社からの需要も多かった。

製鉄関連、燃料ガス関連の需要の他に、端島産の石炭は船舶燃料用にも用いられた。暖房用や浴場用といった一般用途、さらには窯業用などもあったが、いずれもごくわずかの数量にとどまっている。

端島は海底炭鉱であるため、竪坑を通って坑底まで降り、そこから水平坑道と斜坑を通って掘削現場に至る。端島における主要稼働区域下の炭層は、海面下600m付近までは傾斜が40〜45度なのだが、それより深い場所では傾斜がきつくなり、海面下700m以深では60度を超える。この急傾斜では坑内掘りの機械化が難しく、地上への石炭運搬などでも制約が生じることもあった。