今年のアメリカ大統領選挙で、根強い支持を誇った前大統領のドナルド・トランプ氏。生前の安倍晋三氏とトランプ氏は、トランプタワーでの初顔合わせから、ゴルフ場、首脳会談、サミットなどでの対話を重ねた。ここでは船橋洋一氏の『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル』より一部を抜粋。二人のあいだで交わされた“生々しいやり取り”とはどのようなものだったのか。(全2回の2回目/前編から続く

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中国と北朝鮮、どちらが脅威か

 いくつかやり取りがあった後、トランプが突然、安倍に質した。

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「ところで、日本にとって、中国と北朝鮮のどちらがより大きな脅威なのですか?」

 安倍が答えた。

「今の時点での脅威ということでいえば、北朝鮮が脅威です。予想をはるかに上回るペースで核・ミサイル開発を進めています。しかし、長期的な脅威ということで言えば、中国です。中国は米国を西太平洋から追い出そうとしている。日米同盟を破壊しようと考えているからです」

日米首脳会談 ©時事通信社

 日本にとっての脅威は、短期的には北朝鮮、長期的には中国である、と安倍は明確だった。

 その上で、北朝鮮に照準を合わせた。

「北朝鮮はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験にも成功した。米国本土に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)を急ピッチで開発している。それに核弾頭を搭載できるように小型化を進めています」

 北朝鮮は、このSLBMを発射することができる潜水艦(コレ級)を1隻保有していると見られている。

金正日について「賢くはなかった」

 トランプは、再び、安倍に質した。

「金正恩はいかれているのか、まともなのか、それとも賢いのか? どうなんですか」

 安倍は、金正恩に会ったことはない。ただ、金正恩の父親の金正日とは会ったことがある。2002年9月17日、平壌での日朝首脳会談に出席するため、官房副長官として小泉純一郎首相に同行した時、正面から金正日と向き合った。

 安倍は金正日について語った。

「彼はサダム・フセインが核兵器を保有していたらイラクは攻撃されなかった、と信じていたのだと思います。しかし、核兵器を持とうとしたのは間違いだった。賢くはなかった」