「私は社長ですよ!」
労働審判の第1回期日には、女性労働者、女性労働者の弁護士である我々、会社関係者として社長と人事部長、そして会社の弁護士が出席し、ひとつの机を取り囲みながら労働審判が始まった。
当然、労働審判の場では、会社による解雇が認められるか否かが争いとなり、4つの条件が満たされるかが問題となった。労働審判開始5分、労働審判員から最初の質問がなされた。
「会社の業績は悪いんですか?」
この質問が、会社を一代で立ち上げた社長のプライドに火をつけた。社長はやおら立ち上がり、「いいえ!」と大きな声で答え、そこからは社長の独壇場。
自分の会社の製品がどれだけ優れているか、自分の会社がどれだけ業績をあげているか、語る語る。社長の横に座っていた弁護士が必死に社長を止めようとするものの、社長は意に介さず、講演会さながらに自分の会社の素晴らしさを身振り手振りまじえて語り続ける。
「業績いいのにリストラするんかい」……社長以外のその場にいた全員が心の中で総ツッコミ。そもそもの前提が根底から崩れているが、社長はそれに気づく気配なし。
社長の演説が5分くらい続いたところで、労働審判員が間に入り、ようやく次の質問がなされた。
「業績は悪くないというのはよくわかりました。じゃあ、なぜ会社は○○さんを解雇したのですか?」
そこで社長が自信に満ち溢あふれた顔で発した言葉、それは、
「私は社長ですよ! 私がいらないと思う社員をクビにして何が悪いんですか!!!」
なぜか、太陽王と呼ばれたフランス国王ルイ14世の「朕【ちん】は国家なり」という言葉が頭に浮かんだ。絶対君主制ってやつですね。って、あなた、国王じゃないし。
とにもかくにも、社長の迫力に圧倒されてポカーンとする労働審判員、社長の横でうなだれる会社の弁護士、社長の暴走に思わず笑ってしまいそうな我々。なかなかカオスな空間だった。
当たり前だが、整理解雇という会社側の主張は認められなかった。最終的には、女性労働者は会社を退職することを選択し、会社側は解決金として女性労働者に賃金○年分を支払うこととなった。社長にとっては高すぎる授業料だったのか、自信に満ち溢れた顔が一転、苦虫をかみ潰つぶしたような顔になっていたのが忘れられない。
確かに、会社の経営というのは並大抵の努力でできるものではない。社長の経営手腕や実績について評価すべきところもあるだろう。しかし、たとえ社長であっても、会社や従業員を全て自分の思いのままにしてよいわけではない。そのような誤解は、ブラック企業を生み出すだけである。
会社の経営者であり労働者の雇主という立場にある以上、労働基準法をはじめとする労働関連法令をきちんと遵守していただきたい。