市民からは「火葬場職員が金銭を授受している」と苦情

 トップが対立する情勢のなか、この火葬場ではもうひとつ別の問題が浮上していた。それは、心づけ問題である。心づけとは、遺族から職員へ渡るお金のことだ。

 市に対して、火葬場職員が金銭を授受しているという苦情がたびたび入っており問題になっていた。市議会でも「市民から顰蹙(ひんしゅく)を買っているようだ」と取り上げられることも一度ではなかった。

 どうやらここでは「お清め」と称して、遺族から葬儀業者を介して金銭を受け取る慣習があったらしい。1回あたり2000円程度だが、こうした本来必要のないお金を払うことに、疑問や不満をもつ遺族も多かったのだ。本来、気持ちとして渡すものが慣習になっていることが問題である。

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 こうした苦情を受けて伊勢崎市は、火葬場に出入りする葬儀業者を集めて、心づけを取りつがないよう指導した。

 火葬場にも平成7年夏頃から、「おねがい 職員および関係従業員に対する志・お清め等は、固くご辞退もうしあげます」と書かれた紙が貼られるようになった。

 この心づけ廃止という措置に対し、不満を抱えるようになった人もいる。それが、もともとお金をもらっていた職員たちである。実際に事件を起こしたA、B、Cもそうした不満分子だった。

 ここまでは、社長に対して不満をもつ人がいるというだけの話である。しかし、事件がおきる直接的なきっかけとなった出来事があった。

自分たちが火葬業務から排除されるのではないという不安

 心づけ問題と同時期に、偶然にも市が市職員に対して、火葬炉の操作技術の講習会を開いた。これは前年もおこなわれていた研修で、あくまでマニュアルを見てやり方を知っておく、といった程度のもの。実際に職員にすぐさま火葬業務を担わせようという意図ではない研修だった。

 しかし、これで驚くのは従業員たちだ。

 場長の机の上にこの講習会のメモが置いてあったのを、偶然にもAが見つけた。とくに心づけ問題でひと目玉食らった彼は驚いた。この講習会の趣旨はおろか、おこなわれることすら知らされていなかったAには、このメモが解雇通知書のようなものに見えたのかもしれない。

 まさかクビ!? そう捉えたとしても仕方がない。

 心づけ問題とは関係ないことなのだが、偶然にも同じタイミングで市職員に火葬業務を教えるメモがある。自分たちが火葬業務から排除され、職員たちにとって代わられてしまうのではないか……そう不安に駆られた。

次の記事に続く 「殺してやりてえなあ」火葬場会長が社長と対立→部下に指示して社長を火葬炉に監禁・脅迫…群馬の火葬場で起きた“とんでもない事件”の顛末