ルーティンを守るのも、未知のものを体験するのも両方大好き
――エリーズ・ジラール監督は、十年ほど前に自作のプロモーションで初来日されたそうですが、この映画を見ていると、なるほど当時の彼女はこんなふうに私たち日本人を眺めていたのか、と奇妙な気持ちになりました。ユペールさん自身も、日本を初めて訪ねた際、見慣れない景色や習慣に驚いたり戸惑ったりされたのでしょうか?
イザベル・ユペール どんな人も、初めて訪れた異国の地では驚きを感じるものでしょうね。たとえばあなたが初めてフランスに行ったとしたら、「フランス人はどうしてみんなこんなに大きな声で叫び合うんだろう」とびっくりするかもしれません。ただ私に関していえば、特に戸惑った記憶はないですね。私の場合、予想外なものを見つけることが大好きなんです。こんなに自分たちと違うのか、と感じるのはむしろ喜びであって、不快に感じたことは一度もありません。
――ユペールさんは、これまでも様々な国で仕事をされてきましたよね。韓国出身のホン・サンス監督とは三度も映画をつくっていますし、アメリカ映画にもたくさん出演されています。フランス以外の国の映画に参加されるのは、今おっしゃったように、異国で意外な体験をすることが喜びだからこそなのでしょうか?
イザベル・ユペール ホン・サンス監督とは三度仕事をしましたが、韓国に行って撮影したのは『3人のアンヌ』(2012)と『A Traveler’s Needs』(2024)の2回です。『クレアのカメラ』(2017)はフランスのカンヌで撮りました。私はルーティンを守るのも、未知のものを体験するのも両方大好きなんです。でも正直なところ、撮影を続けていくと結局はここが異国だとか外国映画だとかいう意識は感じなくなるものです。もちろんフレームの外にある景色は外国のものですが、カメラで撮るという点ではどこで撮っても一緒。最初こそここは未知の世界だなと思っていても、最終的には、よく知っている世界だなと感じてくるんです。
――ユペールさんは2021年の東京国際映画祭で審査委員長を務められましたが、現代の日本の映画作家で一緒に仕事をしてみたいと思われる方はいらっしゃいますか?
イザベル・ユペール 私の知らない素晴らしい監督もたくさんいるでしょうが、濱口竜介、黒沢清、是枝裕和、北野武の4人にはとても興味があります。それから、東京国際映画祭で同じく審査委員をした青山真治。いつか一緒に仕事をしてみたいと思っていましたが、彼はそのあとすぐに亡くなってしまいましたよね。とても残念です。
――最後に、出演を決める際に一番重視されていることを教えてください。
イザベル・ユペール 一番の決め手は、やはりどういう作品を作る監督か。ただいつも必ずというわけではありません。私はこれまで、新人監督のデビュー作にも出演してきました。その場合は監督の過去作は見られませんから、どのようなチーム編成になるのか、いろいろな要素を考慮して決めるわけですが、毎回これは賭けだなと思いながら臨みます。でも今のところ、その賭けに負けたことはないですね。
Isabelle Huppert/1953年、パリ生まれ。ジャン=リュック・ゴダール、クロード・シャブロルなど多くの名匠と仕事をしてきたフランスを代表する俳優。『ピアニスト』(2001)でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞、『エルELLE』(2016)ではアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。