ラブシーンを成功させるのは本当に難しい
――この物語は、ユーモラスな幽霊譚でもありますよね。シドニは日本を旅するなかで何度も死んだ夫のアントワーヌの幽霊と遭遇し、会話をします。これらのシーンの多くは合成によって作られたそうですが、目の前に相手がいない状態で演技をするのは難しくはなかったのでしょうか?
イザベル・ユペール 実をいうと、彼が目の前にいないときのほうが演技はしやすかったんです。だって彼は幽霊という設定ですから。姿は見えないけれどここには彼がいるんだと必死で想像力を働かせながら演じる方が、目の前に実際の姿を見ながら演じるよりぴったりだったというわけです。
――溝口とシドニのラブシーンも、映像で全体を見せるのではなく、セピア色の静止画を断片的に並べるという、とてもユニークな形で演出されていますね。
イザベル・ユペール あのシーンは、動画を撮ってそれを後から静止画として切り抜いたわけではなくて、本当に写真だけを撮って構成したものです。だから撮影自体がかなり短い時間で終わりましたね。
――シナリオ段階から、そのような撮り方をするとわかっていたのでしょうか?
イザベル・ユペール たしか脚本にはそこまで書かれていなかったような気がしますが、エリーズ自身は、かなり早い段階から決めていたはずです。彼女から、クリス・マルケルの映画にインスパイアされてこの撮り方を思いついたのだと聞いたとき、それはとてもいいアイディアだと思いました。こうしたシーンは見ている方も退屈しがちだし、撮る方も大変な思いをするのが普通です。ラブシーンを成功させるのは本当に難しいんです。だからこそ、ああいう形で写真を繋ぎ合わせるという方法はとてもいいと思ったし、さらにそれをセピア色に変えたというアイディアも気に入っています。