どんな作品でも衣装選びには必ず参加するようにしています
――シドニの着る衣服の美しさにも惹きつけられました。ユペールさんは、衣装選びにも積極的に参加されたそうですね。衣装選びから参加されるのは、これが初めてですか?
イザベル・ユペール いいえ、どんな作品でも衣装選びには必ず参加するようにしています。衣装は、演じる人物がどんな人生を歩んできたのかを観客に伝える大事なもので、演じるうえで欠かせない要素ですから。特に大事なのはその人がどんな色を身につけるか。衣装にかぎらず、画面のなかにどんな色を配置するのかは映画をつくるうえで重要な問題です。
それに、衣装を選ぶのはとても楽しい作業ですしね。決めるまでにはたいてい時間がかかりますが、ときにはホン・サンス監督のように、ものすごく早く決まることもあります。彼の場合、どういう色合いが欲しいかが最初から明確にわかっているので、衣装が決まるのもとても早いんです。
今回はエリーズ自身が衣装に強いこだわりをもっていて、特にシドニが最後の方に着る赤いシャツは、ぴったりくる色を見つけるまで長い時間をかけて探しました。それくらい、エリーズのなかには「この色だ」という明確なイメージができあがっていたんです。シドニが着る服は、最初は少し暗めの色ばかりだったのが、物語が進むにつれ段々と明るい色になっていく。そういう色の進化も、すべて正確に計算されたものだったのです。
――この映画には、東京や京都だけでなく、奈良や直島を歩き回ったりと、日本のいろんな場所の景色が出てきます。俳優として、普段とは違う風景のなかに身を置くことは演技にも影響を与えるものでしょうか?
イザベル・ユペール 演技への影響というより、映画そのものに及ぼす影響のほうが大きいでしょうね。もちろん、実際に桜を見て演技をするほうが、何もないコンクリートを前に演技するよりは感じるものがあるのは当然ですが、今回の映画では、風景と物語とが見事に一致している、ということが大事なんです。ここに映る数々の景色はただ美しいだけではありません。日本の美しい景色を見ることによって、ほとんど死に瀕していたシドニの心が生きることのほうへと導かれていく、それが重要なのです。