「えっと、ここが私の部屋で……ここが歯磨きするとこ。この2つがおトイレ。で、ここがキッチンね」
作品の冒頭、こんなふうに大きな家の中を案内してくれる7歳の少女は、7年前からここに住んでいるが、ここが“本当の自分の家ではない”ことを理解している。ほかの子どもたちも、長年寝食を共にしている仲間について「一緒に住んでる他人」「実の兄弟とは違う」「家族ではない」と口々に語る。時に照れくさそうに、時に寂しそうに。
ここは、さまざまな事情によって親と離れて暮らす子どもたちが共同生活を送る児童養護施設。だから同じ屋根の下に暮らしてはいても、彼らの血は繋がっていない。しかし、そこには確かに絆があって、たくさんの輝く瞬間がある――。映画『大きな家』は、そんな彼らの日常を綴ったドキュメンタリーだ。
『14歳の栞』の衝撃
本作の企画・プロデュースを手掛けたのは、俳優として表舞台に立つ一方で、評論家、監督など映画文化を支える裏方としてもさまざまな活動を続けている齊藤工さん。きっかけは、約4年前、とあるイベントでこの施設を訪れ、そして去っていく自分たちを見つめる、子どもたちの目だった。
「どうせもう来ないんでしょ、とでもいうような彼らの風情が、なぜだかとても気になって。それで、別の日にもう一度、足を運んでみたのが始まりで、交流するようになりました。最初は、映画を撮るつもりなんてなかったんです」
ところが、その後、衝撃的な出会いが転機となる。2021年公開の映画『14歳の栞』。ある中学校の一クラスに密着したドキュメンタリーだが、最大の特徴は、作品の性質上、「DVD/Blu-ray化・配信をしない」というルールを設けていること。また、劇場での上映前には一枚の紙が配られる。