不自由な隠れ家生活のなかでおそらく初潮を迎えただろうアンネは、月経の始末をどうやってしのいだのだろう。月経と口にするのも憚られる時代だった。それを婉曲語法で言うために、「今日はアンネの日」と呼ぶことが提唱されたのだった。つくったのは当時27歳の女性起業家、坂井泰子。「アンネナプキン」という名称でなかったら、売れなかったかもしれない。
最近になって、女性のカラダに関するさまざまな創意工夫を凝らしたフェムテックという分野が登場し、吸水ショーツや月経カップなどの新商品が登場しているが、それを開発しているのも若い女性起業家たちである。アンネナプキン誕生秘話には、坂井を社長にして一億円を投資したミツミ電機の森部一が送りこんだ社員、渡紀彦が、月経ってどんな気分なのか、使用感を味わうために月経用品を身につけて歩いたというエピソードがある。
男にわからないなら、わかるひとを起用すればいい。女のカラダに起きることをいちばんよくわかっているのは女性自身だ。とはいえ、月のものがなくなってから久しいわたしは、月経用品のなかから新製品を試す楽しみがなくなった。
月経についてオープンになったのはよいが、ひとつ不満がある
月経ってどんな気分? 一定の期間、股間から血を流しつづけるのは、けっしてよい気分とはいえない。漏れもにおいも気になる。この気分を男にも味わってほしい、と、アーティストのスプツニ子!さんは、男に月経を経験させる「生理マシーン、タカシの場合。」を制作した。
下半身に器具を装着して、漏れる血を月経帯が受け止める。スプツニ子!さんは、ソ連の人工衛星スプートニク号が世界で初めて打ち上げられたことに感激して、自分の名前につけるほどのサイエンス少女だった。女はね、月経期間中はこんな気分を味わうのよ、と男に体感してもらいたかったのだろう。
と思っていたら、このところ「生理の貧困」キャンペーンが盛り上がり、月経中の女性がどんな気分を味わうか、何が不便か、どんな配慮が必要か、月経用品だってタダじゃない、コロナ禍で追いつめられてそれさえ買えないのがどんなにつらいか、使う枚数を減らすために外出しないようにしている……と、これまで女性が人前で口に出さなかったようなことが、つぎつぎに大手メディアの紙面に登場するようになった。