一方、中国も有人月探査計画を打ち出している。本計画では、2035年ころをメドに、国際月研究ステーション(ILRS)を月面に構築することが主眼となっている。この計画はロシアを大きなパートナーとして、やはり国際計画として進んでいる。
また、中国は着実に無人月探査を進めており、2024年6月には嫦娥6号により、世界で初めての月の裏側からのサンプルリターンに成功した。
日本の企業も次々と参入
このような国家による月探査に加え、月探査・月輸送は民間企業によっても推進されている。2024年1月には、NASAが資金を拠出し、民間の月着陸機を月面に送る「商業月輸送プログラム」の第1号機が打ち上げられた。1号機は残念ながら月に到達できなかったが、2号機は月面に到達することに成功した。
また、日本の民間企業アイスペースは、自ら開発した月着陸機「ハクトR」2号機を2024年12月に打ち上げる予定である。1号機は2023年4月に月面着陸に挑んだが失敗に終わっており、2回目の挑戦で確実に着陸を目指す。
また、日本のベンチャー企業ダイモンは、超小型ローバー「ヤオキ」を2024年冬に、先の商業月輸送プログラムにて月に送る計画である。
月探査が熱気を帯びている理由は、月面の水の存在の可能性により、宇宙飛行士の滞在への障壁が大幅に緩和されたことによる。アルテミス計画での着陸地点も、水が存在するとされる月の南極域が予定されている。
その先2030年代には、人類の月面滞在も検討されており、すでに日本の民間企業でもそれに向けた技術開発に取り組むところが増えている。月面で水を取り出す技術、月面で建物を構築する技術など、従来の宇宙開発の枠を越えた技術が必要とされる一方、日本の総合力が発揮できる領域ともいえる。
人類が再び月へと足を踏み入れるタイミングは刻一刻と近づいている。国家グループ間の競争、民間企業のビジネスとしての月輸送など、様々な要素が織り交ざりながら、月探査はこの数年で大きな山場を迎えようとしている。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』に掲載されています。