1995年(124分)/松竹/動画配信サービスにて配信中

 一九五八年の監督デビュー以降、岡本喜八は毎年のように数多くの映画を途切れることなく撮ってきた。だが、『近頃なぜかチャールストン』以降、しばらく監督作品はなくなってしまう。八〇年代は、これと『ジャズ大名』のわずか二本しかない。

 それでも決して折れることはなく、『大誘拐 RAINBOW KIDS』で復活してのけた。そして続いて撮ったのが、今回取り上げる『EAST MEETS WEST』だ。岡本喜八といえば、戦争映画や時代劇などで西部劇への憧憬をストレートに示してきた。そんな男が、そのまま西部劇を撮った、大願成就の企画といえる。

 舞台は日米修好通商条約が締結された幕末。勝麟太郎(仲代達矢)ら条約批准の使節団がアメリカへ向かうところから物語は始まる。だが、サンフランシスコ滞在中に、銀行に預けようとしていた一行の旅費が強盗に奪われてしまう。通弁見習いの健吉(真田広之)はその事件に巻き込まれて父を失った少年・サムの敵討ちのため、強盗団を追う。一方、一行の従者で元忍者の為次郎も金銭の奪還に向かう。

ADVERTISEMENT

 この設定で、しかも岡本喜八による現地アメリカでのロケーションとくれば、さぞや楽しいアクション映画になるに違いない――と期待するところ。公開時の筆者もそうだ。

 が、実際はそうならなかった。全体的に牧歌的なムードでストーリーの起伏もユルい。何より、代名詞といえる、あの目まぐるしい勢いのカッティングがない。念願の西部劇ということで、さすがの岡本喜八も力が入ったというのもあるだろうし、撮影時は体調が悪かったことも大きい。

 そのため冗長な印象すら与えてしまい、当時観客だった身からすると不満が大きかったことは否めない。

 それでも、ただでは転ばないのが岡本喜八。後に「ディレクターズカット版」を制作しているのである。しかも、だ。通常「ディレクターズカット版」は初公開時に上映時間の都合などで削った場面を新たに追加する。そのためオリジナル版より長くなる。

 だが、本作は違う。なんとオリジナル版より十六分も短いのだ。特にテンポが悪かった中盤を中心に刈り込んでおり、編集もテンポアップ。段違いに面白くなっている。まさに、観客にいかに楽しんでもらうかを第一にしてきた監督ならではの「ディレクターズカット」といえる。

 名画座ではこちらを上映することもあるので、ぜひ見比べてほしい。「大作家」「巨匠」の座に決して甘んじることなく、「娯楽職人」としての姿勢を終生貫いた、その矜持が伝わるはずだ。