是枝作品で見せた岡田准一の名演技
(5)『花よりもなほ』(2006)
『花よりもなほ』は、当時、映画俳優として飛躍しつつあった岡田准一を主演に、『誰も知らない』で大きな注目を浴びた是枝裕和監督の次回作として制作された。江戸時代を舞台に岡田が仇討ちをするべきかどうか悩む武士を演じている。ドキュメンタリーのテレビ番組第1作『しかし… 福祉切り捨ての時代に』では自殺を余儀なくされた官僚の家族を、映画第3作『DISTANCE』では加害者遺族を描いた是枝にとって、“残された者たち”を描くのはテーマのひとつだったはずで、その作品群の延長線上に存在する映画でもある。ラストシーンの岡田の表情は、『戦場のメリークリスマス』の北野たけしの笑顔をも彷彿とさせる名演技だ。
(4)『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(2013)
近年は『ミッシング』『空白』など社会派と括られそうな作品が評価されている吉田恵輔監督だが、2010年代の半ばは、本作や前述の『ヒメアノ~ル』、中島健人(当時・Sexy Zone)主演の『銀の匙』などジャニーズ俳優と連続的に作品をつくっていた。
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』は、麻生久美子演じる脚本家を目指す女性と、安田章大(当時・関ジャニ∞)演じる脚本を書いたことがないのに妙に自信のあるビッグマウスな男性が出会うことで始まる物語だ。
自分の才能と夢と現実に向き合う登場人物の心情が痛いほどに伝わってくる上に、安田が自身で作曲した歌を歌唱するシーンもあり、ファンにも嬉しい作りだ。当時の関ジャニ∞は一般的には錦戸亮と渋谷すばるの2人が歌が上手いというイメージで、この映画で安田という“第三の声”の表現力に驚いた人も多いはず。ちなみに、安田の役のモデルは吉田と長らくタッグを組んできた脚本家の仁志原了で、本作でも脚本に名を連ねている。