売れなかったときの堂本剛
(1)『まる』(2024)
『まる』は荻上直子監督が、テレビで観た堂本剛に「私よりしんどそうな人がいる」と感じ、荻上にしては珍しくあて書きをした映画である。堂本剛が劇中音楽も手掛けている。
売れなかったときに、それをやりたいと思う気持ちまで否定されていいのか――。純粋にやりたいことを追求しようとして苦悩するアーティストの主人公・沢田は、アイドルとして売れなかったときの世界線に生きる堂本剛その人の姿にも見えるほどだ。
印象的なシーンがある。森崎ウィン演じるミャンマー出身のコンビニ店員・モーが、その片言の日本語を客たちに馬鹿にされる。それを目撃した沢田の行動として、一般的に考えられるのは、彼らに殴りかかったり注意したりといったところだろうか。
だが沢田は、静観したのち、自らがモーに謝るのである。差別などの問題に直面したときに、誰かに怒り、攻撃するのではなく、社会の痛みを自分の痛みとして感じ、悲しむ。コロナ禍でも分断する日本社会を想って、ラジオで涙を流していた堂本剛自身と大きく重なるシーンである。もちろん、堂本と重なるといった点をさしひいても、アーティストが売れる・売れないという話だけでなく、能力主義にも疑義を呈する大きなテーマをもった、今年の邦画NO.1と言っても過言ではない傑作だ。
ジャニーズ映画は広い映画の世界への入り口になる
以上が、筆者の選んだジャニーズ映画TOP5である。
ちなみに、筆者が人生で初めて観た実写映画はSMAP主演の『シュート!』だった。小学2年生のときだったが、すごいものを劇場で観たという感覚が強く残る、強烈な映画体験だった。アイドルが出演しているというのは、若年層にとって十分に映画を観る理由として機能するから、そこが広い映画の世界の入り口になることもあるだろう。
また、『ヒメアノ~ル』の公開初日には、劇場で森田剛のファンと思しき女子高生が隣に座っていて、残虐なシーンにハンカチで目を覆っていたのが印象的だった。ジャニーズが映画に出るということは、本来は出会うはずのなかった作品への旅に、彼らが連れて行ってくれるということでもあるのだ。
『夢物語は~』でも詳述したが、新体制下の事務所タレントたちは、より自由度が増し、映画で組む相手や作風もより幅広くなっていくことだろう。今後も多くの想像を越える旅ができることを期待したい。