しかし中学生になると変にひねくれてきて、「マジカルバナナ」を見ていてもそれだけでは素直に楽しめなくなってきた。単純に連想できるものをつなげてゆくだけのことには、もはや大して面白みを感じられない。中学生レベルのボキャブラリーなら、つなげるだけならいくらでも出来てしまう。授業を聞かずにノートに「ひとりマジカルバナナ」を書き続けながら、ふとあることに気付いた。「2つ飛ばしくらいで出て来る単語だけを抜き出して並べていったら、なんか面白い」。私は「桃→ひな祭り→あられ→ひょう」とつなげてあった並びの「ひな祭り」と「あられ」に二重線を引いた。「桃→ひょう」……。言葉の関係性のつながりが絶妙になっていて、なんともいえない味が出て来るのだ。「マジカルバナナ♪→バナナといったら黄色♪→黄色といったらレモン♪→レモンといったら初恋♪」というふうにつなげていけば、「バナナ」と「初恋」が絶妙な距離感を保っている。「レモンのような初恋」という比喩はベタベタすぎてみんなうんざりするだろうけれど、「バナナのような初恋」はその組み合わせの新鮮さに「え? どんな初恋? 知りたい知りたい」と思わず気を引かれてしまう。私はさっそく、延々と続けていた「ひとりマジカルバナナ」のうち、まず2番目と3番目に、次に5番目と6番目に出て来る単語の上に二重線を引いてゆくという作業を繰り返した。そうするとこういう並びが生まれた。「桃→ひょう→新幹線→登山→三角→ミイラ」。何だこの脈絡のない言葉の羅列は。単に途中経過を省いているだけなのに。面白い。面白いぞ。
そして二重線を引いて消してしまった途中の単語も、捨てるにはもったいない気がしてきた。一旦消してしまったものだって、並べればやっぱり脈絡のない流れが出来る。「ひな祭り→チーター→こだま→キャンプ→ピラミッド」「あられ→速い→ヤッホー→テント→エジプト」。ここまで来たら、もともとがどういう流れだったか一目瞭然だろう。つまり、出て来た言葉を全部書き出してみて2個おきにグループを作ってみた場合、
A1→B1→C1→A2→B2→C2→A3→B3……
といった並びになるので、都合3つのグループを作ることが出来るわけだ。
それでは実際に「マジカルバナナ」に登場した、ある回のラインナップを紹介してみよう。
マジカル 温泉
温泉といったら お湯
お湯といったら かける
かけるといったら 毛布
毛布といったら 寝る
寝るといったら 起きる
起きるといったら 目覚まし
目覚ましといったら 時計
時計といったら 針
針といったら 糸
糸といったら お裁縫
お裁縫といったら お母さん
お母さんといったら お父さん
お父さんといったら ヒゲ
ヒゲといったら 電気カミソリ
まあこれ以降もずっと続いていくわけだけれど、いったんここで打ち切っておくことにする。そして登場したそれぞれの言葉を、2つおきに並べていくとこうなる。
A 温泉→毛布→目覚まし→糸→お父さん
「温泉」から「毛布」を連想する人、「糸」から「お父さん」を連想する人は間違いなくいない。しかし連想ゲームの間を飛ばしてしまったことでこんな組み合わせが可能になる。でもこの流れだけでも、不思議と何らかのストーリーがあるように見えてくる。温泉に行って、毛布で寝て(わびしいな)、目覚ましで起きて(のんびりすればいいのに)、釣り堀に糸をお父さんと一緒に垂らす……なんだかいい話っぽいのが見えてきたじゃないか。ここに出てきた単語の中で「○○のような○○」といった構文をつくったときいちばん驚くのはなんだろう。「糸のようなお父さん」だろうか。「毛布のような目覚まし」だろうか。そういうことも考えてみると面白い。