駅裏の山から町を見下ろすと…
金沢八景駅の裏手の権現山。その麓から北に進むと、線路沿いに横浜市立大学のキャンパスがある。他に周辺には関東学院大学もあるから、学生街の趣も持っているのだろう。
横浜市立大学の北側にあるのは、総合車両製作所横浜事業所。こちらは海軍の技術廠の跡地で1946年から操業している鉄道車両工場だ(経営は東急興業→東急車輌製造→総合車両製作所と変わっている)。車両工場の隣は、京急の車両基地である。
ちなみに、京急のレールの幅は新幹線と同じ1435ミリ。一方で、総合車両製作所が製造しているJRの在来線などで使われる車両は1067ミリだ。だから、そのままではせっかく製造した車両を京急の線路を介して運ぶことができない。
そこで、工場の目の前から京急逗子線を介してJR横須賀線逗子駅手前までは、レールを2本ではなく3本敷いて、車両のレールの幅に関わりなく走れるようにしている。いわゆる三線軌条というもので、金沢八景駅でもいちばん西側のホームから見ることができる。
余談はさておき、鉄道車両の工場があって、大学のキャンパスがあって。海に臨んだ景勝地にはじまった金沢八景は、駅の開業とともに都市に飲まれて工業地・学生街・住宅地・商業地と、あらゆる顔を持つ町に変わってきたのである。これこそ、横浜という都市の発展そのものといっていいかもしれない。
そうした中で、いまでも景勝地の一面を忘れていないのはたいしたものだ。2008年には、金沢区制60周年を記念して「新金沢八景」が選定されている。だいぶ景色は変わっても、江戸の昔とはまったく変わった景色もあれば、変わらないものもある。この町は、歴史の中でもバランスが取れているのだ。
あらゆる面でバランスの取れていて、交通の便はいうことなしの大都市の端っこの町。金沢八景は、もしかしたら大都市近郊にあっては理想郷のような町なのかもしれない。
写真=鼠入昌史
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