〈あの思い出が昼も夜も心の中にある。いつまでも忘れることのない、あの甘く大切な思い出〉
人は誰しもかけがえのない思い出を胸の裡に秘めている。それは家族と、友人と、あるいは最愛の人とのかけがえのない日々の記憶だ。人生の黄昏時を迎えたとき、過ぎ去りし日への追憶はより深まり、時に人を苦しめる。
クリストファー(エギル・オラフソン)もまた、身を焦がした恋の残影を追いかけている。老境に差し掛かり、初期の認知症と診断された彼は、その記憶さえ揺らぎだす恐怖に駆られながら。「人生でやり残したこと」はひとつだけだ。
もう一度、彼女に会いたい。あの日、突然消えてしまった彼女に――。
コロナパンデミックが世界に広がり、国境は閉じられようとしている。もはや一刻の猶予もない。アイスランドで20年続けてきたレストランを閉め、娘の制止を振り切り、彼は旅に出る。彼女と出会ったロンドン、そして彼女が生まれた国、日本へ。
映画『TOUCH/タッチ』で、「愛についてのロマンティックなストーリーを語りたかった」と、バルタザール・コルマウクル監督は語る。作品には自身が経験し、肌身に感じた思いが投影されている。
「6年前に離婚をして、家族が崩壊する経験をしました。自分は何を間違ったのだろうか、その愛にきちんと向き合っていなかったのではないか、過ぎたことばかり考えるようになりました。でも人生の残り時間はどんどん減っていく。自分で決着をつけないといけない。そんな思いを抱えているときに、原作小説に出会って、やっと見つけたと思いました。自ずと自分がすべきことがわかりました」