震災翌月の神戸に生まれた在日コリアン3世の金子灯(あかり)とその家族を見つめる映画『港に灯(ひ)がともる』が、阪神・淡路大震災から30年となる1月17日より公開される。
本作を先行して観た地元の人からは、「繊細だけれども腹が据わった作品」「うまく言葉にできないけれど、とにかく観て欲しい」という声となって安成洋さんに届いたという。
「私自身、考えさせられることの多い作品でした。被災者だけでなく、被災体験のない被災2世や、在日コリアン2世と3世といった人を通して今の神戸を描いています。親子であっても世代間で受けるトラウマは異なっていたり、震災の影響はなくても人生を“あの日”に引きずられている人がいる。何が人の心を痛めるのか、名状しがたいものを突きつけられました」
灯は、父親が折に触れて語る被災体験や在日コリアンとしての歩みを聞くたび、接ぎ木のようで、しかし父親とは違う痛みと息苦しさを覚えていく。その灯に、朝ドラ『ブギウギ』で福来スズ子の付き人・小夜を演じた富田望生(みう)さんが誠実に向き合っている。
人だけではない。本作は街が負った傷にも目を向けている。大通りにはない、路地に刻まれた震災である。
「安達もじり監督はずいぶんと街を歩かれたようです。神戸に生きる人と地面をじっくり見つめ、川島天見さんと共同脚本を練っていかれました」
朝ドラ『カーネーション』や『カムカムエヴリバディ』などを演出したNHKの安達もじり氏による監督は、安さんたっての願いだったという。
「兄で精神科医の安克昌の著書『心の傷を癒すということ』を原作にしたドラマが2020年に放送された際、安達さんはじめスタッフの方々とのご縁ができました。震災で心に傷を負った人たちをケアし続けた医師の物語は、その後、映画化もされ各地の公民館や学校で上映会が行われるほどになりました。会場でお客さんとお話をすると、何年経っても震災を忘れられず、それなのに人には話せず胸にしまいこんでいる人が大勢いたのです。フィクションや物語はそういう人たちの心にも受け入れられ、寄り添える力があることに気付かされました」
行く先々で震災30年の節目に新しい作品を求める声を受けた安さんは、同じチームで映画を作れないかと働きかけた。そして安さん自身も映像制作会社「ミナトスタジオ」を立ち上げ、同社の設立趣意に「震災の記憶をこれからも繋いでいく」と掲げた。
「2000年に亡くなった兄・克昌は、医師は震災で心に傷を負った人の前で佇むことしかできないけれども、ずっとそこに立ち続けなければいけない、と書き遺しています。私ができることは映画を通して寄り添うことです。神戸と震災を経た人びとの記憶はどのように変わっていくのか。それを見守るために映画を作り続けたいと思っています」
あんせいよう/1964年生まれ。合同会社「ミナトスタジオ」の代表社員で本作のプロデューサー。2023年、「阪神・淡路大震災の記憶を繋ぐ映画の製作と普及」のため、神戸を拠点とするミナトスタジオを立ち上げた。
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映画『港に灯がともる』
1月17日(金)より新宿ピカデリーほか、全国順次公開
https://minatomo117.jp/