亡き母を慕って泣き叫ぶ幼子たちの間で秋吉さん(46)は「危険を承知で入ったのだから仕方がありません。ただ、残された子どもたちがかわいそうです。それにしても、狙われたものだとすれば、何か諦めきれないものがあります」と語っていた。だが、立ち入り禁止区域での出来事なので、泣き寝入りのほか仕方がないようだ。

 最後のセンテンスは記者の感想だろうか。同日付夕刊1面コラム「寸評」の「危ない演習場のタマ拾い、今年2人目の事故。命を的のアルバイト、算盤ダマに合いません」と重ねると、住民の日常的な立ち入りを「打つ手がない」と諦めているようにも思える。

 しかし、この事件は「泣き寝入り」にはならなかった。3日後の2月3日付朝刊では全国紙3紙も報じたが、やはり内容的に先行している上毛を見よう。

過去の事故死と異なり、さまざまな“疑惑”が浮上

なかさんは射たれた! 相馬ケ原演習地の事故死


 30日の事故については事態が異例のケースであることから、県警本部では1日、岡田刑事部長、下平捜査第一課長が米軍当局と事故原因究明のための協同捜査について打ち合わせする動きを見せた。2日は茜ケ久保代議士(内閣委員会委員、社会党)が問題を重視。現地調査に来訪し、「4日から始まる国会の内閣委員会へ問題を提出する」と語るなど、大きな波紋が広がってきた。


 過去に頻発した砲弾の破片による事故死と異なり、当日の演習はライフル(自動小銃)によるものであることから、さまざまな疑惑に包まれており、真相が判明すればかなり影響が大きいと予想される。県警は極秘に捜査を行っており、事態の成り行きが注目されている。

 ここまではリードだが、記事は中見出しを挟みつつ本筋に入る。

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一米兵をMPが連行 目撃者五人で首実検


 この日、米軍は朝から演習を行っていた。午前は小銃の実弾射撃、午後から空包演習だった。事故の起こる少し前の午後2時ごろ、演習は終わっていた。死亡届により、管轄の高崎署が調べたところ、目撃者から「米兵に射撃された」との証言を得て事態を重視。県警本部と連絡し、本格捜査を開始した。

「なかさんは射たれた!」と続報を載せた上毛

死体から出た薬キョウ


 31日、同署はなかさんの遺体を群馬大で解剖。背中から薬莢(やっきょう)*を摘出した。次いで2月1日、下平捜査一課長らは目撃者5人を伴って埼玉県籠原キャンプ(現熊谷市)に出向いて狙撃米兵を突き止めた。その結果、当初の過失致死の疑いは薄れ、殺人の疑いが濃厚となった。同署はさらに慎重に取り調べを進めている。

*弾丸の容器