「ジラードが英雄視」という報道も
連邦地裁では国務、国防、陸軍3長官の喚問の可能性が新聞紙上で取り沙汰されたが、ダレス国務長官は6月9日付読売朝刊の「ニューヨークAP電」で「私は巻き添えを食いたくない」と“本音”を漏らし、自身の出廷を否定した(結局、請求は却下された)。
一方、同日付読売夕刊のワシントン特派員電は「今や英雄扱い 全米にうずまく抗議・嘆願」で「ジラードという米兵は今や全国から英雄視され、新聞は彼の婚約者とともに彼の写真を大きく載せているし、問題は再びホワイトハウスに帰ってきたようだ」と記述した。兄ルイスとキャロル弁護士はテレビに出演するなど“時の人”になっていた。
『米兵犯罪と日米密約』によれば、6月10日の下院である議員はこう発言した。「日本がパールハーバーに卑怯な攻撃を行ったことは、ここにいる誰もが承知のこと。日本人の気性を考えれば、米兵を裁判するために彼らがどれだけ躍起になっているか……。想像すると身の毛がよだつ」。真珠湾攻撃からまだ16年。さらに、陪審制でない日本の裁判や刑務所制度に対する不信感も根強く、社会党が動いていることを「左派の策動」と嫌う傾向も強かった。
連邦地裁の開示公判はメディア注視の中、6月11日から始まったが、1週間後の18日、マクガラギー判事は人身保護令状請求は却下したものの、「ジラードの日本側への引き渡しは、憲法で保障された人権を侵害するもので、引き渡しを禁止する」との裁定を下した。19日付上毛夕刊のワシントン共同電「米政府、打開をあせる」は、岸首相の訪米が19日に迫る中、アメリカ政府がなるべく影響を与えないよう苦慮したとの見方を示した。20日付朝日社説は「事態を紛糾さす米地裁の裁定」と批判。
22日付毎日朝刊「土曜評論」で評論家・阿部眞之助(のちNHK会長)は「これでは今後私たちは、安心してアメリカと約束ができなくなるだろう」と嘆いた。30日の全米向けテレビ放送で朝海浩一郎・駐米大使は「ジラードがアメリカ当局に引き渡されるようなことがあれば、岸内閣は崩壊に至るだろう」と述べた(7月1日付毎日夕刊)。
司法省は20日、連邦最高裁に上告。最高裁は7月8日、審理を開いたが、9日付上毛夕刊の「ワシントンAP=共同」電は「午前10時、開門と同時に傍聴を希望する100人以上の人がドッと法廷ロビーに繰り込み」「あぶれた人は法廷の外に人垣をつくって、警察側ではその数を傍聴席と合わせて約2000人と推計した」と報じた。そして7月11日。
米最高裁判所は11日午後0時半(日本時間12日午前1時半)、ジラード事件の判決を発表し、米政府はジラード三等特技下士官が日本の法廷で裁判を受けるため、日本側に引き渡す権限を持っているとの裁定を下した。
ウォーレン首席判事は最高裁の裁定文の最後に「日本裁判所による裁判は極めて公平に行われるものと確信する」と述べた。


