現在放送中の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』は、江戸時代中期に浮世絵の版元として活躍した蔦屋重三郎が主人公だ。
地味な人選と思えなくもないが、個人的には大好きな人物だったりする。というのも、今回取り上げる『歌麿 夢と知りせば』に登場する蔦屋が、とんでもなくヒロイックだったからだ。
本作は、喜多川歌麿を中心とした、当時の浮世絵師や文化人たちの人間模様が描かれている。歌麿に岸田森、葛飾北斎に菅貫太郎、平賀源内に内田良平、志水燕十に中丸忠雄、市川団鶴に平幹二朗、田沼意次に岡田英次といった濃厚なキャスティングが、実相寺昭雄監督らしいスタイリッシュかつアバンギャルドな映像で切り取られている。
そして蔦屋を演じるのは、我が愛しの成田三樹夫だ。
本作での蔦屋は表現の自由を守るため公権力に徹底して抗うのだが、それを演じる成田の姿が終始カッコいい。
まず初登場シーンからして最高だ。文化人たちが寄合をしているところに、奉行所の同心(小林昭二)が踏み込んでくるのだが、ものすごい剣幕で問い詰めてくる相手に少しも動じないのである。ここで見せる成田の貫禄と押し出しの強さは、蔦屋がただならぬ人物であることを伝え、早くも心を鷲掴みにされる。
一方、なかなか女性を描けない歌麿に声を荒げるなど、時には厳しくしながら絵師たちに寄り添う。やがて歌麿の筆が上達すると、今度は一転してその成長を優しい声で喜んでいる。そうした様には、クールな悪役を演じる時の成田とは異なる人情味に満ちた熱さがあふれ、そのギャップがたまらない。同時に、どれだけ蔦屋が浮世絵師たちに抱いている愛情が深いかも、明確に伝わってきた。
そして、最高の見せ場が終盤に待ち受ける。蔦屋たちの後ろ楯だった田沼が失脚し、新たな老中に松平定信(仲谷昇)が就くと、浮世絵や芝居は「人の心を乱れさせる」として取締まりが激化する。やがて蔦屋も捕らわれることに。その際、「世を乱すいかがわしき者ども」と言い放つ同心に対し、蔦屋はこう返すのだ。「そんな――そんなことが世の中を乱したりなんかしませんよ! 世の中を乱しているのは、あんたたちじゃないですか!」「……あんたたちなんですよ――」
しびれた。この状況下において、公権力を面と向かって批判することは、文字通りの命懸けの行為だ。それでも抑えられない。そんな蔦屋の信念の結晶ともいえる魂の叫びが、成田の強く堂々たる口跡で放たれる――。当然、心が激しく震えた。
