二月後半といえば、二・二六事件だ。一九三六年二月二十六日に陸軍皇道派の青年将校たちが決起し、時の総理大臣・岡田啓介らを襲撃。高橋是清大蔵大臣や斎藤実内大臣といった重臣たちが命を落とした、クーデターである。
この事件を最初に映画化したのが、今回取り上げる『叛乱』だ。新東宝の製作、佐分利信と阿部豊が監督している。
まず触れたいのは、青年将校たちを演じた面々だ。山形勲、安部徹、小笠原弘、近藤宏、沼田曜一など、後年の貫禄ある役柄や悪役のイメージが強い俳優たちの若き日の演技が実に青々しく、新鮮。
誰もが早口気味かつ切り口上の強い調子でセリフを言い、姿勢も表情も絶えず強張っている。そんな若さあふれる演技がかえって、将校たちの余裕の全くない様とピッタリと合い、そのストイックなまでの純粋さを際立たせていた。
これが、全体を貫く冷たく淡々とした演出と相まって、画面の隅々にまで緊迫した空気を生み出している。
その緊張感は、既に黒澤明監督と『野良犬』を作っている名脚本家・菊島隆三に依るところも大きい。本作は事件の計画から決行、そして失敗と処刑に至るまでが描かれている。それを菊島は、将校たちの動向と心理のみに焦点を絞って切り取る。その結果、ほとんど弛んだ時間のない、ソリッドに研ぎ澄まされた物語構成になったのである。
また、ベテランの俳優たちもそれぞれに素晴らしい芝居をしている。冒頭で永田鉄山軍務局長を殺害する相沢三郎中佐を演じた辰巳柳太郎は、斬りかかる際と処刑される際、それぞれにおいて強烈な狂気を放つ。一方、辰巳の盟友である島田正吾は将校たちに投降をうながすべく、彼らの占拠する首相官邸に乗り込んでくる陸軍大将を演じている。この時、血走った眼差しを突きつけてくる将校たちと対峙しても一歩も引かないどころか、むしろ押し返すほどの、圧倒的な貫禄を見せつける。首謀者の安藤大尉(細川俊夫)を説得する上官役の藤田進の硬骨漢ぶりや、若者たちを翻弄する山下少将を演じる石山健二郎の狡猾さも素敵だ。
中でも圧巻は佐々木孝丸だ。将校たちの後ろ盾となる思想家・西田税を演じているのだが、決起の失敗を予見しながらも彼らのために力になろうとする、理性と焦燥の狭間で揺れ動く役柄を、クールかつ人間臭く演じている。特にラストが見事。処刑される際に「天皇陛下万歳」と叫ぶことを拒むのだが、この時に佐々木は悟り切ったかのような、実に爽やかな表情をし、人間としての芯の強さを伝える。
全てにおいて、極めて完成度の高い作品である。
