名作映画にはキービジュアルといえる象徴的な画(え)があり、作品自体のイメージとして定着している。そして、ソフト化される際のパッケージもたいてい、それが採用される。
前回の『生きる』でいうと、何と言っても「ブランコに乗る主人公」だろう。パッケージも、大半の紹介記事も、基本的にはその画のスチールが使われてきた。ただ、東宝が意外なアプローチに出ている。
4K版と「4K Ultra HD」版という超高画質のソフトを新たに発売しており、4K版はいつも通りの「ブランコ」。だが、Ultra版はそうではない。
前回の本稿に掲載された写真をご覧いただくと分かるが、「ジョッキを片手に振り返る主人公」という、全く思いも寄らない画がパッケージになっている。
こうした高画質版のソフトはコレクターズアイテムである。そのため、珍しいパッケージにした方がマニアの購買意欲をそそると考えたのでは――と推測している。
今回取り上げる同じく黒澤明監督作品『野良犬』もまた、思い切って攻めたパッケージになっている。
本作の舞台は、戦後の荒廃がまだ色濃く残る東京。若手刑事の村上(三船敏郎)はバスの中で拳銃を掏(す)られてしまう。銃には七発の銃弾が。そして、その銃が強盗殺人事件に使われた。村上は、ベテラン刑事の佐藤(志村喬)とともに犯人を追う。
凶弾を早く止めなければ、さらに人の命が奪われてしまう。そんな、サスペンスフルな物語が、黒澤らしいド迫力の映像とともに綴られていく。街も人の心も荒れ果てた東京。見るからに暑そうな炎天下で、ひたすら犯人を捜す三船――。
そして本作の核の一つが、犯人逮捕にはやる村上、それを優しく諭す佐藤という、『七人の侍』にも繋がる三船=志村のバディ感だ。この、「血気盛んな若手刑事」「それを支えるベテラン刑事」という図式は、後に作られる多くの刑事モノの原型になった。
そのため、本作のキービジュアルは「犯人を追う三船と志村」のツーショットとなり、パッケージ等でも基本的にはそれが使われてきた。
だが、今度の東宝は、そうではないのだ。Ultra版は「拳銃を構える三船」の、ビシッと決まったワンショット。見た目はカッコいいのだが、物語を知る方からすれば、なんとも皮肉な画である。
さらに本作では、4K版のパッケージがかなり攻めている。「犯人に銃をつきつけられ、壁に手をつく三船」。あまりにも、よもやの選択だ。
今後の黒澤作品では、東宝はどんな写真をパッケージに使ってくるのか。楽しみだ。