テレビが映らず、情報が得られない

 しかし、南さんが「それよりも書いてほしいことがある」と力説したのは、テレビだった。「『映るようにしてほしい』と何度も要望しているのに、メドが立っていない」と話していた。

 電波が届きにくい真浦町で地上波のテレビを見るにはケーブルテレビに加入するしかない。

 珠洲市は民間の能越ケーブルネット(本社・富山県氷見市)の営業エリアだ。インターネットも同社のサービスだった。

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 真浦町へのケーブルは、珠洲市側から逢坂トンネルを通していた。このため土砂崩れなどで断線してしまった。同トンネルは開通の見込みが立たず、復旧策はなかなか見つからなかった。

国道249号が真浦町でカーブする。その先にあった逢坂トンネルは入口さえ見えない(奥能登豪雨前に撮影) ©葉上 太郎

 輪島市側からケーブルを引けるかというと、こちらは市営のケーブルテレビなので事業体が違う。

 そこで、能越ケーブルネットは一つの案を模索していた。埋もれた珠洲市側の逢坂トンネルについては、国交省が隆起した海岸の上を迂回する仮設道路を建設中だった(2024年末に完成)。「この仮設道路上にケーブルを引けないか」と検討していたのだ。ただ、具体化まではしていなかった。

 当面、見られるテレビは、衛星放送用のアンテナを設置した家のみBS・CS放送だ。これだと地域のニュースや天気予報の番組がない。

「地元のニュースを得たい」と、新聞は輪島市側の販売店と交渉して配達してもらうようにした。

 ラジオは聞けたが、受信できる範囲が限られていた。

 固定電話も珠洲市の局番が不通になり、電波が届く範囲だけ携帯電話が使えた。

能登半島地震で崩落した真浦町の山。真下で全壊状態になった家(奥能登豪雨前に撮影) ©葉上 太郎

帰還した住民が感じた不安

「真浦町は陸の孤島です。目と鼻の先の輪島市ではライフラインが復旧しているのに、せめて文明生活のはしくれぐらいできるようにならないものか」。南さんは切々と訴えていた。

「輪島市に編入させてほしい。そうしたら、ライフラインが復旧するはず」と話す住民もいた。

「番外地」のような状態が続く中、帰還した住民がとりわけ危機感を強めていたのは防災行政無線だ。

 南さんは「地震の後、ほとんど聞こえなくなりました。市役所には伝えたけど直らない。新たな災害が起きたら、誰が責任を取るのか」と語気を強めていた。

 この不安は奥能登豪雨の発生で現実のものになる。

撮影 葉上太郎

次の記事に続く 能登半島地震で断水が続き、風呂も使えないのに宿泊を受け入れ続けた旅館……そして悲劇が襲い掛かった